“もう一つの地球”の可能性と、水星の謎に迫れ。日欧共同開発の水星探査機、愛称「みお」に決定

水星に秘められた謎

 ベピコロンボは大きく、水星の「生まれ方」、「育ち方」、そして「生まれた場所」の謎を解明することを目指している。  たとえば、水星の姿かたちは地球の月と似ており、そのためかつては、水星と月は同じような星だと考えられていたこともあった。しかし近年の探査で、水星には月とは異なる鉱物がたくさん見つかっており、実は似て非なる星であることがわかった。では水星はいったいどうやって生まれたのだろうか?  また、近年の探査で、水星の表面にはつい最近まで火山の噴火があったことを示す、変わった地形が見つかっている。しかし、水星はとても小さな星なので、いくら太陽に近いとはいってもすぐに熱が逃げて、冷え固まってしまうはずである。もし、過去に火山があったとするなら、いったいどのようなメカニズムで起きていたのだろうか?  さらに表面には、ガスが吹き出たような痕跡も発見されている。しかし本来なら、水星が今の形になるまでに、太陽の熱でガスがすべて抜けてしまい、そもそも内部にガスは溜まらないと考えらる。では、水星はいったいどこで生まれたのだろうか? ある仮説では、水星はもともと、今より太陽から遠く離れた寒いところで作られ、その後太陽に近づき、内部からガスが噴出したという、ちょっと想像しにくいようなダイナミックな出来事が起きた、と考えられているが、まだその証拠は見つかっていない。  こうした謎に、ベピコロンボの探査で終止符を打つことが期待されている。

米国の水星探査機が撮影した、水星のレンブラント・クレーターと呼ばれるところ。地球の月と似ているが、組成などが異なる、似て非なる星であることがわかっている (C) NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

“もうひとつの地球”について知る手がかりにも

 水星を探査するもうひとつの意義は、この宇宙に無数にある他の惑星、それも生命がいるかもしれない星の研究に役立つと考えられていることがある。  これまでの観測で、太陽系の外に、3000個を超える数の惑星(系外惑星)が見つかっている。その中には地球のように岩石ででき、また温度が生命の居住に適していると考えられる星もいくつかあり、地球外生命体がいるのでは、という機運も高まっている。  しかし、そのすべてが太陽系や地球と同じ姿かたちや環境をしているわけではない。  むしろ太陽系の姿のほうが異端なほどで、たとえば水星と太陽との距離よりもはるかに恒星に近いところを惑星が回っていることもある。この場合、恒星から出る高速のガスなどから受ける影響は、水星と同じくらい厳しいものになる一方で、気温は生命が存在できる状態になっている場合もあり、その星に生命がいないとは言い切れない。  つまり、水星の環境について詳しくわかれば、こうした惑星がどのような環境なのか、そして生命が存在できる地球のような天体があるのか、そのための条件はどういったものなのか、といったことについて知る手がかりになる。そして、その成果はいつか、もうひとつの地球のような天体を探す手がかりになるかもしれない。  長年、ほとんど手つかずだった水星探査に挑む、日欧共同開発の探査機ベピコロンボ。日本側の探査機に「みお」と名付けられた理由には、「みお」が河川や海で船が航行する水路や航跡の意味をもつこと、また古くより船が航行するときの目印にする標識を「澪標」(みおつくし)と呼ぶことから、これまでの探査機の研究開発の道のりを示すとともに、これからの航海安全を祈る意味があるという。  また、澪標は、和歌では「身を尽くし」の掛詞になることから、努力と挑戦を続けるプロジェクトメンバーの思いも表しているとしている。  名前に込められた想いが叶い、探査が成功することを願いつつ、間近に迫った打ち上げを心待ちにしたい。

「みお」の実機(2015年に筆者撮影)

<文/鳥嶋真也> 宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info) 【参考】 ・JAXA | 水星磁気圏探査機MMOの愛称決定について(http://www.jaxa.jp/press/2018/06/20180608_mmo_j.html) ・水星磁気圏探査機「みお」 | 科学衛星・探査機 | 宇宙科学研究所(http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/developing/mmo.html) ・ESA Science & Technology: BepiColombo(http://sci.esa.int/bepicolombo/) ・水星磁気圏探査機MMOに関する説明会 | ファン!ファン!JAXA!(http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/detail/10296.html) ・MESSENGER | NASA(https://www.nasa.gov/mission_pages/messenger/whymessenger/index.html
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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