同様にカタールがS-400の購入を検討しているが、それを牽制しているのがサウジである。6月に入って、サウジのサルマン国王がマクロン仏大統領に書簡を送って、ロシアがS-400をカタールに提供する可能性について深い警戒心を抱いていることを伝えていたと、仏紙『Le Monde』で6月1日付で報じられたという。(参照:「
HispanTV」)
ちなみに、サウジがこの書簡を送るのになぜマクロン大統領を選んだのかというと、それはカタールがフランスとは強い絆があるからである。カタールはフランスに<100億ユーロ(13兆円)の投資>もしているほどで、また昨年12月にマクロン大統領がカタールを訪問した際には<戦闘機ラファール12機とエアーバス50機の購入を盛り込んだ120億ユーロ>にも及ぶ契約が交わされてもいる。(参照:「
El Pais」)
カタールがS-400の購入を決めたのは今年1月である。その背景には、昨年6月にカタールがサウジをリーダーとする近隣諸国によって封鎖され国交断絶という事態になって国防をより強化する必要が生まれたことがある。しかも、この封鎖決定の背後にいたのはトランプのいるアメリカである。カタールはそれを認識してロシアとの関係強化に動いた。その結果が、S-400の購入に結びついたのである。
ただ、サウジのこの懸念は理解しがたいものもある。というのも、昨年10月にサウジの国王として初めてサルマン国王がロシアを訪問した際に、同じくS-400の購入を契約しているのである。しかも、14項目にわたる契約書類には、両国が協力して一部の部品はサウジで生産するということが盛り込まれているというのである。更に、カラシニコフ銃がサウジで生産されることもその合意の中に含まれているというのである。(参照:「
El Pais」)
すなわち、サウジは自国ではS-400の購入は出来るが、近隣諸国によるその購入はご法度にしたいらしい。しかも、カタールがそれを購入しようとするのであれば、サウジはサルマン国王が表明しているように武力行使も辞さないという構えであるという。しかし、いずれこの両国のS-400の購入にもトランプの米国から横やりが入るであろう。今の処は、その動きはメディアでは取り上げられていない。
現在までS-400の購入に関心を持っている国は、トルコ、イラク、サウジ、エジプト、モロッコ、インドネシアそしてインドとカタールである。トルコとカタールの絆は強い。トルコはサウジとの関係は疎遠になっている。その分、カタールとの絆は強くなっている。トルコがS-400を購入すれば、カタールも同様に購入するはずである。
しかし、米国の影響下にある諸国がS-400の購入に走ることをトランプの米国は望んでいないのである。
<文/白石和幸 photo from Armed Forces of the Russian Federation( (CC BY 4.0) )>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。