先行き不安な業界にいても大丈夫か――【石原壮一郎の名言に訊け】~瀬戸内寂聴の巻~

Q:出版社で働いて5年がたちました。単行本の編集をやっています。好きではいった業界だし仕事も楽しいのですが、出版不況もいよいよ深刻化していて、ここ数年は急速に市場が縮んでいる実感があります。冬のボーナスも雀の涙でした。このまま、明らかに先行き不安な業界にいていいんでしょうか。ほかにやりたい仕事があるわけではないんですが、転職するなら20代の今のうちという気もしています。(東京都・28歳・出版社) A:うわっ、身につまされる相談が来ました。20代か……。いいですね、まだまだ未来も選択肢もあって。いや、すいません。個人的な感慨はさておき、ちょうど隣りに、親戚のあいだでは頼りになることで有名なヨシエ伯母さんがいるので、聞いてみましょう。 「出版社って、今はたいへんらしいわね。ほら、出版不況っていうの。スマホの時代だしねえ。そこに来てこの円安でしょ。えっ、それはあんまり関係ない? わかんないじゃない、どこでどう関係してるか。世の中を甘く見ちゃダメよ。  そうそう、相談に答えなきゃね。ほかにやりたいことがあるなら、転職してもいいと思うわよ。だけど、やりたいわけじゃないけど、先行きが明るそうな業界を選んで転職しても、うまくいかないんじゃないかしら。5年先10年先なんて、だれにもわかんないわよ。  ウチも旦那と小さな会社をやってるけど、もし、そういう動機で入社して来られたら困るわねえ。こう言っちゃなんだけど、ちゃんと仕事できるのって心配になっちゃう。なに? ウチの会社は先行き明るくないから、そんな心配ないって。アハハ、そのとおりね。  私、昔から瀬戸内寂聴さんが大好きなの。すごいのよ、あの人。なかなかいいこと言うんだから。ある本に、こんな言葉が書いてあったの。 【自分の好きなことを決めなさい。それをやればかならず人生が楽しくなりますから。才能があるかないか、そんなことを先に気にしても仕方がありません。まず、好きなことをやってみるべきです】  今の仕事が好きなのよね。じゃあ、続けなさいよ。寂聴さんは「才能があるかないか」を気にしても仕方がないって言ってるけど、先行きが明るいか暗いかを気にするのも同じことだと思うわ。好きな仕事を一生懸命に続けていれば、きっと何とかなるわよ。先行きばっかり気にして転職するより、そのほうがよっぽど明るい未来につながるんじゃないの。  寂聴さんは、こうも言ってるわ。「過ぎ去ってしまった過去よりも、どうなるかわからない未来よりも、はるかに切実で大切なのが、この『いま』です」って。アテにならない未来なんて気にしなくていいわよ。私も今年で古希だけど、今がいちばん楽しいの。あら、ごめんなさい。そろそろダンスの時間だわ。じゃあ、がんばってちょうだいね。」

【今回の大人メソッド】とりあえず好きなことに全力を尽くすのが幸せへの近道

先のことは誰にもわかりません。安心で安全で有利な道を探し始めたら、たぶん迷子になって無駄に疲れるだけでしょう。業界の先行きを気にして右往左往するより、とりあえず好きなことに全力を尽くせば、たとえその業界がダメになったとしても、自分の中に「幸せに生きていくための力」のようなものは残るはず。それさえあれば大丈夫です。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
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