2018年度の「THAIFEX-World of Food Asia」も大盛況だった
タイは観光国として日本人だけでなく、世界中からたくさんの人々が訪れる。タイを気に入ってそのままタイに移住してしまう外国人も少なくない。そのため、特にバンコクは世界中の「食」が集まり、本格的な各国料理が楽しめる。
そんなこともあって、タイの飲食業界は非常に熱い。2018年5月29日から6月2日まで、バンコク郊外にあるコンベンションセンターで「THAIFEX-World of Food Asia」が開催された。2017年度は5.5万人を動員したほど、食品業界に注目される見本市で、出展する食品メーカーやブランドは新規顧客開拓のためにブース内に商談席も用意する。
筆者も5月30日に現地に足を運んでみた。一般への開放は最終日のみで、この日は飲食店経営者や食品ディストリビューター、メディアのみが入場できた。それでも会場周辺は駐車場までわずか500mにまで近づいても1時間近くかかるなど、入場前から盛況であることがわかった。
会場内は国ごとに集められ、一番占有範囲の広いタイ・ブースは当然ながらたくさんの人がいた。タイも近年はオーガニックなどにも力を入れ、またタイ国内でタイ人からの見直しもあってタイ料理が注目される。当然ながら、言語の有利さもあったかもしれないが、とにかく混雑していた。
次に人気ブースだったのは日本である。菓子類から日本酒までなんでも揃っていて、試食サンプルは飛ぶように消えていくほどの盛況だった。タイは和食ブームが2010年以降に始まって以来、いまだに人気がある。
タイ人には全般的に和食は好まれるが、実質的な購買層は富裕層であり、例え日本からの輸入品としてタイに持ち込むことになっても、価格的には大きなハンデにはならないのも好都合だ。そういったこともあってか、今回の日本ブースは日本政府やJETRO(日本貿易振興機構)の大きなバックアップもあるようだ。
そんな中で筆者が目をつけたのは山形から来たという、小さな食品会社だった。主力商品は「イカの塩辛」。この企業はこれ一本でタイ市場に挑もうとしている。
その企業は「株式会社 山形飛鳥」だ。拠点は山形県酒田市で、『イカに恋してる』を商標登録しているこの会社は、年間1200トンのイカを刺身やイカの塩辛、肝を使った肝醤油に加工し、主力商品にする。ただ、普通のイカではないと、海外事業部の山中肇氏が胸を張る。
山形飛鳥のブースに立つ山中氏(向かって左)と、輸出有望案件発掘支援専門家の大友文雄氏
「塩辛に使うイカ自体が刺身にできるほど鮮度の高いものです。それは船凍船から仕入れることで実現しています」
船凍船(せんとうせん)とは、イカ釣り専門の漁船のうち、船内で急速冷凍ができる機能を持った船である。実はこの船凍船は日本国内に65隻しかない。しかも、そのうちの13隻が山形飛鳥が拠点を置く酒田港に入港する。獲れたスルメイカをその場で冷凍にし、港に近い工場で職人たちが一気に捌いていく。山中氏曰くはイカの肝にも注目してほしいという。
「食品の加工機械は多くが特許申請した精密な機械です。当社では特に肝を油分と肝そのものに分離する機械を某大学などと共同開発しているので、イカの肝本来の味を楽しめるようになっています」
肝を混ぜた醤油はイカの刺身だけでなく、ほかの食材や料理に使っても濃厚でうま味が増すという。マグロの赤身には合うし、安い牛肉は高級感のある味わいに昇華する。ただ、脂の強い中トロや高級牛肉などの高級な食材には合わないらしく、「所詮イカですからね」と山中氏は笑う。