『宮本から君へ』とはなんだったのか、そして「宮本と私」という話 「サラリーマン最終列車」#3

バブル文化へのアンチテーゼ

『宮本から君へ』という作品は、アンチ島耕作である以上に、「アンチ・バブル」という情念に貫かれていた。バブル景気という時代そのものを敵視し、挑発していた。  当時カッコいいとされていた、ディスコ、高級レストラン、デートカー、トレンディドラマ、スキー・ブーム、DCブランド、そうした文化に浸って明るく消費を楽しんでいた軽佻浮薄なサラリーマン。それらバブル的な作り笑顔の世界に対する憎しみから生まれた渾身のカウンターパンチ、それが宮本浩という存在だった。  自分の場合は、ポストパンクやゴスや特撮やプロレスやホラー映画という、バブルの光の当たらない暗がりに避難することで、あの喧騒をやり過ごすことが出来たけれど、宮本は真正面から感情を爆発させて突破しようとしていた、ということだろう。そんな彼のいら立ちに、今思うとどこかで共感はしていたのかもしれない。  そして現在。宮本があれだけ憎んだバブル景気はとっくの昔に崩壊し、島耕作も年老いて、宮本の仮想敵はいなくなった。この20年で働き方も大きく変わり、昭和のサラリーマン像もさすがに賞味期限切れだ。それでも深夜ドラマの宮本は、青臭いままの年齢で、あの頃のままの生きざまを暑苦しく晒している。  エンディング曲にかぶさる映像には「わたし、皆さまの敵でございます」という手書き文字。時代に合わせる気はさらさらない、というやせ我慢宣言のようにもみえる。それはそれで、非常に宮本らしい。  深夜ドラマの中の宮本と同世代の、今20代前半の若者たちは、宮本のアナクロな働き方を見て、なにを感じとるだろうか。自分はサラリーマンを続けて管理職の年齢になり、ドラマの中の宮本の年齢とは大きくズレてしまったからなのか、懐かしい戦友が遠くで闘い続けている姿を見守るような気持ちでテレビを眺めている。嫌いだったのに。 <文/真実一郎> 【真実一郎(しんじつ・いちろう)】 サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある。
サラリーマン、ブロガー。雑誌『週刊SPA!』、ウェブメディア「ハーバービジネスオンライン」などにて漫画、世相、アイドルを分析するコラムを連載。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(新書y)がある
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