「まず問題点を挙げるとすると、高プロには労働時間の規制がありません。今、議論されている働き方改革法案には、1カ月平均80時間までという時間外労働時間の規制がありますが、これは高プロには適用されません。もちろん、現行法の1日8時間、1週40時間の原則も適用されません。極端に言えば、朝9時から午前0時、いや翌朝9時までの就業時間にしても何のお咎めもないということになります。
裁量労働制のように、業務遂行に際して労働者の裁量でできることもありません。
さらに、高プロでは、会社は労働者に休憩を与える必要がありません。現行法では6時間を超える労働には45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を労働時間の途中に与えなければいけないことになっています。しかし、高プロの対象者には何時間でも働かせてOKなのです。
もちろん、労働時間の規制がないので残業代もありません。深夜労働についても割増の賃金を払う必要はありません。
一応、高プロには労働者の健康確保措置についても記載がありますが、なんと
1 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入
2 労働時間を1ヵ月又は3ヵ月の期間で一定時間内とする
3 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
4 時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する
のどれか一つを選べばいいのです。企業側はそもそもできるだけ低い賃金でたくさん働かせたいわけなので、4を選ぶ企業が多くなるでしょう」
しかし、対象は1075万円以上となるという話が以前からあったように、それなりに高収入の人が対象で年収400万円程度ではそれに該当しないのではないかという声も依然として根強いというが……。
「1075万円というのはあくまでも例えであり、実際は平均給与の3倍の額を相当程度上回るものと設定されています。しかし、そもそも経団連は第一次安倍政権で高プロの元とも言えるホワイトカラーエグゼンプションが検討されたときに出された提言(参照:
経団連)では、”年収400万円以上で時間の制約が少ない頭脳系職種、つまりホワイトカラー労働者をすべて残業代ゼロにすること”と記載されていたんです。最終的なゴールはいまだにそこを狙っているのは間違いありません。
佐々木亮弁護士
それに、現在の法案でもやり方次第では理論上年収400万円以下でも適用することが可能になります。
高プロで最大限に労働者を働かせようと思ったら、365日から使用者が付与を義務付けられている休日日数104日を引いた261日働かせることができます。前述した通り、労働時間規制がないので、24時間の就業時間にすれば、6264時間働かなければならないという契約も可能になります。無茶苦茶だと思われるかも知れませんが、労働時間規制を外すということはこういうことなんです。
しかし、そんなぶっ続けで人は働けません。するとどうなるか? 使用者側にとって、控除は可能なんです。労働時間と賃金のリンクを外すなどと謳われてますが、その反面欠勤控除はそのまま。おかしいですよね?
それを前提に、年収1075万円をモデルケースにされることが多いのでその場合で考えてみましょう。まず、年収1075万円の人を6264時間働かせることが理論上可能なので、実質の時給は1075万円÷6264時間となり1716円となります。すなわち、もし1時間働けないと1716円ずつ給料が減ることになります。
高プロの年収要件はあくまでも『見込み』なので、実績などは不問で使用者側が『君はこれから年収1075万円の見込みとするので、高プロ適用になるから』と言えばそのまま適用になる。その後、欠勤などで下がって控除される分については、あくまでも『見込み』なので関係ないとされてしまうんです。
すると、単純に時給1716円の労働者となり、労基法の労働時間規制で許される労働時間、すなわち現在の適法状態の労働条件で計算し直すと年収357万7860円になってしまうんです」