2階の開いている窓からの立ち入りには少々危険を伴う気配もあったため、勝手口のドアを解錠した。
中へ入ってみると注文住宅然としたゆとりある間取り。吹き抜けで広めに取られたリビングは採光も十分に考えられておりシャッターが閉められた状態でも明るい。
どこもある程度きれいに保たれているため、すぐに調査も終わるだろうと高をくくっていたのだが……。
2階へ上がる階段が無い。よくよく調べてみると廊下に不自然な壁があった。どうやら、これを剥がすと奥に階段があるらしい。とは言えこじ開けないわけにもいかず、壁を剥がすと、全員が顔をしかめた。
異臭。これまでに嗅いだことのないタイプの異臭ではあったが、この異臭で肺を満たすのは危険であろうということは全員が一瞬で察知した。
そしてホコリと毛。毛と言っても長めの大型犬の体毛のようだった。ホコリの具合からして結構な年月が経過していることが伺える。
恐る恐る2階に上がると大量の糞尿が散らばっており、2階全体の床は尿と吹き込む雨で絶望的なダメージを追っていた。
糞の量からしてある程度の期間ここで“何か”が監禁されていたようだが、人間が立ち入った形跡はなく、餌をどうしていたのかはサッパリわからない。水はどうやら開けっ放しになっているトイレの便器から摂っていたらしい。
そして、“あるもの“にたどり着いたとき、我々は息を飲んだ。
三つある部屋の一つを渋々寝床にしていたのか、かつては大型犬であったであろう何かがベッドと一体化していたのだった。おそらく外界に助けを求めもがくうちに、網戸の全てがすだれ状に切り裂かれたのだろう。
生活基盤の崩壊が精神に悪影響を及ぼし、最終的に家族であったはずのペットに矛先が向けられるという事案は少なくない。これらを未然に防ぐ手立てもなければ、早期発見を可能にするシステムもない。
我々は再び戸締まりをし、何事もなかったかのようにその家を後にしたのだった。
私は、成功者のサクセスストーリーや苦労話といったコンテンツには、成功に関するヒントなんて潜んでいないと思っている。
彼らはタイミング良く、後の結果論として運良く“成功”に繋がる行動があっただけなのではないか。それを今から「よしっ!」と一念発起し真似てみたところで無駄に終わる。
一方で、資本主義競争社会に敗れ散っていった者たちには、共通する傾向や教訓がある。彼らの半数以上がは、もとはいわゆる“勝ち組”であったり、幸せや贅沢を謳歌できる中流以上の生活を送っていた。
彼らがどこで何につまづき、また体勢を立て直せなかったのはなぜか。無数にあるボタンの中から、なぜ落とし穴に繋がるボタンを選び出し、疑いもなく押してしまったのか。
それを本連載で引き続き、明らかにしていきたいと思っている。
【ニポポ(from トンガリキッズ)】
ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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団塊ジュニアランド!
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