ベトナムで戦時行方不明者の身内を抱える人々がすがる「特殊能力者」

高田胤臣

米軍との戦いが激しかった中部ダナンは、今やKFCも進出している

 にわかに信じられないかもしれないが、東南アジアの一国、ベトナム社会主義共和国では「霊能力者」が行方不明になった人々と今を生きる人たちを結びつけている。

 ベトナムは何百年もの間、中国や欧米諸国からの侵略と独立のための戦いを強いられてきた。特に激しかったのがベトナム北部と南部の対立という内戦でもあると同時に、アメリカという超大国との戦いでもあったベトナム戦争だ。日本人でも50代以上ならリアルタイムで報道を見てきたほど最近の話でもある。

 1975年4月に終結したこの戦争では、米軍死者約6万人に対し、北ベトナム側はおよそ100万人が犠牲になった。日本ではあまり知られていないが、このほかにも何十万人という北ベトナム側の兵士や民間人がいまだ家族の元に帰っていない、戦時行方不明者になっている。

 戦争が終わって40年以上経った今でも、家族は行方不明になった夫や兄弟を探している。さまざまな方法で探すのだが、手を尽くしてしまった家族たちが、せめて亡骸だけでもと助けを求めるのがNhà ngoại cảmと呼ばれる、ある種の霊能者なのだ。

科学者も研究対象にする能力者

 ベトナムには死者と交信できるなどの霊能力を持つという人が多くいて、研究もされている。主に「応用情報科学技術連合」とハノイ物理院に事務局がある「人間潜在能力研究所」がそういった能力者の研究や活動を支援している。戦時行方不明者の遺骨を探す仕事はこういった民間団体に所属している能力者が引き受けている。

 しかし、ベトナム政府は公式には霊能力者を認めてはいない。2013年には霊能力者の遺骨探しで大きな詐欺事件も起きている。政府側はこのときの容疑者らを詐欺師だと断言し糾弾した。

 そして、それは政府だけでなく、科学者の多くも、霊能力による遺骨探しは「いかさま師のカネ儲けだ」と声明を発表しているとウェブニュースにある。しかし、その際の声明内容では、「霊能力者の遺骨探しは的中率が低く、本物の霊能者でも時期などによって変動し、30~70%の確率でしかない」とある。(参照:「VietnamPlus」※翻訳は東京外語大サイトより)

 つまり、霊能者の遺骨探しを糾弾しつつも「本物の霊能者」の存在を認めてもいるのだ。2003年には大阪大学の川越道子氏によってまとめられた「ベトナムにおける戦争の記憶の形成過程」という論文にも霊能力者が登場し、具体例が示されている。(参照:「ベトナムにおける戦争の記憶の形成過程」)

日本のテレビでイカサマ呼ばわりされたベトナム人女性

ティエムさんの近影(左)。(新妻氏提供写真)

 ベトナムの首都ハノイで、そんな霊能力者のひとりを知るという新妻東一氏にお目にかかった。氏は、学生の研究や企業研修向けの特殊な旅行をメインに扱う旅行代理店を営みながら、ときどきテレビ取材のコーディネートも行う。テレビの海外取材は現地在住の日本人などが現地で情報収集をし、アテンドや撮影コーディネートを行う。氏はそんな仕事の中で出会ったある特殊能力者の女性と親しくなった。

 その能力者はホアン・ティ・ティエムさんだ。現在40代半ばで、2007年7月に日本のテレビでも取り上げられた。それ以前から彼女はベトナムでは有名で、噂を聞きつけた取材班がわざわざ日本から来たのだ。

 ティエムさんには「第3の目」があるという。心眼とは違って、彼女の場合、眉間、両方のこめかみ、鼻の先からものが見えるのだという。動画サイトで放映された日本の番組を確認すると、目隠しをされながらも確かにものが見えているかのようにカードを探し当てる。ティエムさんはハノイから2時間弱で行けるホアビン省の小さな村に暮らす女性で、それまではただの農民であった。あるとき友人の勧めで瞑想教室に通うようになり、そのときに第3の目が開眼したのだという。

 しかし、新妻氏によれば「今はもう透視はしていません。むしろ見えなくなったということにしている」そうだ。というのも、第3の目を使ってカードを探し当てる実験をいろいろなところで行い、そのたびに「トリックだ」などとティエムさんは言われてきた。実際、日本のテレビ番組に再出演した際は医学的な検査を受けさせられ、アイマスクのわずかな隙間から視力0.1レベルで外を見ていると推測された。彼女はそういった批判に自分の能力を閉ざしてしまった。

 そんなティエムさんだが、今は違った超能力を使い、ベトナムに貢献している。彼女は第3の目のあとに別の能力も開花し、ベトナムの人々の過去と未来を繋いでいるのだ。

 それが先の戦時行方不明者の捜索である。ティエムさんはどこかで人知れず亡くなった人々の魂に呼びかけ、居場所をみつけだすという霊能力も身につけ、現地に赴き、ときには電話越しに遺骨捜索を行っている。新妻氏自身は遺骨捜索に参加したことはないが、ある場面を目の当たりにしたことがある。

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