それは労働時間の側面からも、見受けられる。
一般的に、弁護士の勤務時間は一般的なサラリーマンよりも長い傾向がある。抱える事案件数によっては、毎日のように深夜まで働いている人もいる。したがって、高収入を目指せば目指すほど、労働時間は増して過酷なものとなる。このような理由から、企業への転職を考える弁護士が増えている。
一方で、企業側にも弁護士を採用するメリットは多い。
近年、既存ビジネスを海外進出させるケースや他国企業とのM&A(合併・買収)が増えている。そのほか、人工知能による革新技術や高度なIT機器によって、ビジネスが常に多様化・複雑化している一方、社内では労使問題も重要視され、今までになかった社内法務の整備が求められている。
こういった様々な法務リスクに対し、迅速かつ内密に対処するため、法務全般に関する知識と実務を修得した弁護士を社内に抱える需要が高まっている。
また、専門の弁護士は、担当企業のビジネスを断片的にしか理解できず、アドバイスも総じて一般的で無難なものにとどめる傾向があるが、社内弁護士は違う。一社員として、所属した企業に特化したサービスを提供する存在なのだ。
したがってその企業の歴史、ビジネス、経営理念、組織体制、人員、文化などのすべてを把握したうえで、問題解決を行うことが可能。最近では、法務業務にとどまらず、ビジネスの観点から戦略的なアイディアを発信し、商品の企画・開発事業にまで携わるケースもある。
韓国では、社内弁護士たちによって結成されている「社内弁護士会」という団体まで存在するほど、その社会的地位が高まりつつある。
スローガンは「社内弁護士のための、社内弁護士による、社内弁護士の会」。
社内弁護士としての権益を保護しながら教育の場を設け、社内弁護士間の経験と知識を共有するというもの。それに伴い、セミナーやシンポジウム等を毎年開催しており、会員が1泊2日でさまざまなプログラムを共有するワークショップも行う。そのほか文化行事や同好会活動、定期的な昼食会などを通じて、社内弁護士間のネットワークも強化している。
しかし、そのように連携を深めながらも、各社内弁護士たちの立場から、ある企業に対して「韓国社内弁護士会」の名前で声明を出したり、圧力をかけたりするなどの活動は避けている。
そういった活動はある程度の影響力を持つ一方、その企業内で個人の立場が危ぶまれる恐れがあるためだ。
当然ながら、企業ごとに方針や給与システムが違うため、外部から一緒くたに意見することはほぼ不可能。それよりも重きを置いているのは、弁護士として加入義務である大韓弁護士協会や各地方弁護士会においての権益保護だ。
既存の弁護士に比べて社内弁護士が見下された扱いを受けた時や、社内弁護士としての特殊な事情を考慮してくれない時に対する問題提起をおこなっている。
企業で優遇される社内弁護士として、必須といえるスキルがある。
それは企業法務の最大課題である、問題の解決と予防。自身の知識と経験を駆使し、現場で社内の人々と連携を取り合いながら、その問題を解決へと導くことだ。
しかしこれは、法務関連の知識はないにせよ、どの会社員でも努力次第で習得できるビジネススキルである。弁護士といえサラリーマン。どの時代でも常に企業で求められるのは、問題解決能力が高い人材と、それに対して努力できる人材である。
<文・安達 夕
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