時代を先取りし、順風満帆だったネットショップ。だがある日を境に急転
「ネットショップを起ち上げて三カ月もすると、レメディは爆発的に売れるようになりました。在宅で働く人が珍しかった時代に、ネットで派手にやっていたせいか、日本経済新聞の取材も受けました。そして半年後には年商1千万円ほどの売り上げに到達したんです。当時はまだ、レメディを扱うネットショップは5軒程度しかなかったのも功を奏したのだと思います」
時代の流れを読み、先物をつかむ―つまり「鼻が利く」ということ。それはアスペルガー症候群特有の「五感の鋭さ」なのかもしれない。
「子供が生まれても在宅だから便利で、誰にも会わず、迷惑もかけず、通勤もせず、ネットショップ1本で食べられるようになった―それは結局、自分の体を楽にしたいという思いから生まれた苦肉の策であり、必要不可欠なことだったのですが、それでちょっと珍しいことを先んじてしていたらみなさんに喜んでもらえた。体が弱くてよかった、とさえ思えた幸せな時代でしたね」
まるで天国のようなビジネスは2008年まで続いた。だがある日突然、パッタリと売れなくなってしまう。
「理由は、5店舗しかなかったネットショップが2万店舗超になったこと。プロの手を借りなければ開店できなかったものが、現在は5分もあれば開店できるようになってしまった。そこに主婦層がなだれ込んできたわけです。私が見つけたブルーオーシャンは、瞬時にレッドオーシャンになってしまいました」
主婦層のネットショップは商品の見せ方も美しく、可愛らしいラッピングや気の利いたカードに、「カウンセリング付き」などのホスピタリティあふれる言葉も踊る。コミュニケーション障害の自分が敵うはずもないーーアズ氏は痛感していた。
在庫を抱えて焦るあまりに、50万円の広告費をかけたり、高額な経営セミナーに参加したり、ついには霊能者や占い師にも頼り……気づけば、借金は1千万円に膨れ上がっていた。
とうとう夫に打ち明けたが「自己破産すればいいんじゃない?」と言われ、アズ氏は再び途方に暮れてしまったのだった(※近日公開予定の<3>に続く)。
<取材・文/和場まさみ 構成/安英玉(HBO編集部)>