『21世紀の資本』がバカ売れするワケ

21世紀の資本論

21世紀の資本論

 電話帳ほど分厚い経済専門書が、欧米で飛ぶように売れている。フランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本論』だ。各国の税務統計など、20以上の国の所得と資産のデータを300年の超長期にわたり遡って分析した本書は、富める者はますます富み、そうでない者との格差がジリジリと広がっていく……資本主義の暗鬱な未来を予言する。格差の拡大は資本主義に根源的に内在するメカニズム、というピケティの指摘は、これまでの経済学の常識を覆すものだが、彼は膨大なデータから実証してみせたのだ。  発売されたばかりの日本語版『21世紀の資本』(みすず書房)の翻訳を手掛けた、大手シンクタンク・コンサルタントで評論家の山形浩生氏は、異例のヒットの理由をこう説明する。 「本国フランスよりアメリカで人気を博しているのは、もともとアメリカでは格差の問題が大きくクローズアップされており、『今も不当なやり口で格差は広がっている』と主張する人々がオキュパイ・ウォールストリート運動を展開するなど、社会の関心が高かったからでしょう。一方で、『1%の超富裕層が莫大な富を手にするのは、資本主義においては正当なこと』と主張する人から、『そもそも格差なんて存在しない』と言い張る人までが入り乱れた議論になっていたが、そんなおり、『いや、実際に格差は拡大している』『能力が高い者がたくさん稼いでいる、なんて単純な話ではない』と、きちんとデータを突きつけたのが本書だったのです」  経済学者の間では、本書の評価はどういったものなのか。獨協大学経済学部の本田浩邦教授が話す。 「R・ゴードンやA・サマーズなど有力な学者がアメリカ経済の長期停滞を主張し話題になっていましたが、ピケティの議論はそのもっとも大きな理論の大枠とデータを与えるもので、ソロー、スティグリッツ、クルーグマンといった歴代ノーベル経済学賞受賞者たちから絶賛されています。もちろん、新古典派や新自由主義の学者の多くは、ピケティの主張を認めていませんが。また、欧州では学生の間にも主流派以外の言説を求める動きがあり、こうした気運が昨今の『資本論』(マルクス)再評価にも連なっている。簡単に言えば、新自由主義とは、資本主義はハッピーエンドの“天国モデル”。逆にマルクスは、資本主義が最後には崩壊する“地獄モデル”を描いた。実は、天国と地獄の間には、煉獄という苦しみが長く続く世界があるのですが、ピケティの主張は、強いて言えば“資本主義の煉獄モデル”なのです」

『21世紀の資本』を読み解く4つのポイント

・「資本主義が発展すると、平等になっていく」通説は誤りだった!? ・『r>g』資本収益率は経済成長率を常に上回る! ・所得と富の不平等は今後もさらに拡大していく…… ・格差拡大を防ぐにはグローバルな累進課税しかない! 【山形浩生氏】 大手シンクタンク・コンサルタント。評論家。翻訳家。近著『「お金」って、何だろう?』(岡田斗志夫との共著。光文社新書)ほか、著書多数 【本田浩邦氏】 獨協大学経済学部教授。専門は現代アメリカ経済論。共著に『格差と貧困がわかる20講』(明石書店)、『現代アメリカ経済分析』(日本評論社) ― ピケティ『21世紀の資本論』丸わかり解説【1】 ―
21世紀の資本

格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー

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