中国政府は、中国人のガス抜きとして海外旅行を内政へ利用しているが、ここ数年、タイと日本へ偏ってしまっている中国人の渡航先へより都合のいい北朝鮮を再び加えたいと考えており、今年2月末、訪朝規制を全廃、同時期に北朝鮮ツアー公告禁止も解いている。
その効果はおもしろいほどにすぐに表れており、丹東の旅行会社によると、今年前半は訪朝する中国人、しかも、日帰りや1泊ではなく、2泊以上必要な平壌へのツアー参加者が急増しており、丹東や瀋陽に駐在して応対する北朝鮮人スタッフも増員されたとのことだ。
ちなみに中国メディアでは報じられないが、今回、事故にあったツアーの中国側の手配旅行会社は、北京の「中唐国際旅行社」。同社は、北京の日本大使館サイトに訪日ビザ手配会社としてリストアップされているので、日本ツアーも盛んに実施しているそこそこ信用ある旅行会社と思われる。
一方、北朝鮮側であるが、すべての日本人を担当する「朝鮮国際旅行社(KITC)」ではなく、「KKG」という最近、旅行業へ新規参入した旅行会社で、同社は、北朝鮮で銀行やタクシー会社などを運営するグループが母体で、KKGは、ほぼ中国人専門に近い旅行会社のようだ。
こうした背景も、なるべくネガティブな話を出さずに、北朝鮮との融和をアピールする方向で官製メディアの方向を決定づけたと言える。
さて、今回の事故で注目された北朝鮮の高速道路事情はどんな感じのか。数年前から複数回、北朝鮮の地方都市を視察している中国朝鮮族の事業家は、「ひどいの一言」と話す。
「2年前に元山エリアを視察し、金剛山や馬息嶺スキー場なども車で移動しながら見て回りましたが、平壌から元山までの高速道路はまだマシでしたが、元山からの道は凸凹、車内でピョンピョンと飛び跳ねるような状態で軽いむち打ちになりました。30年前の中国の道路のようです」
北朝鮮の主要高速道路は金日成主席の時代である90年前半に作られたものが多く、その後、大きな改修工事はされていない。
今回、事故が起こった平壌-開城高速道路は、板門店へ行く外国人観光客が利用する幹線路のため北朝鮮の高速道路の中ではもっとも整備されている高速道路だった。
「かつての中国もそうでしたが、北朝鮮は人やモノを運ぶインフラを軽視し過ぎています。金剛山や馬息嶺スキー場のような集客スポットを作れば莫大な投資が集まると思っていますが、こんな道路状況では誰も来ませんよ。道路をもっと整備して、パーキングエリアのような場所をもっと作ったほうがいいと担当者へ助言したのですが、『あなたの言うことはもっともだが、私にはその権限がないので何もできない』と言われてしまい北朝鮮の道路インフラがよくなるのは、まだ先になるなと感じました」(前出の朝鮮族事業家)
今後、南北米会談の行方次第では、今後は北朝鮮観光もオープンになってくる可能性が高い。そのときまでにインフラが整備され、今回のような事故が起きないようになっていることを願わずにはいられない。
<取材・文/中野鷹(TwitterID=
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