米国における麻薬の最大供給元はメキシコで、その90%を担っているという。その麻薬を提供しているのはメキシコのカルテルだが、彼らの調達先は、メキシコを始め、コロンビア、ペルー、グアテマラなどだ。
薬物の生産地としてのメキシコをみると、毎年7万4700ヘクタールの耕作面積でヘロインの原材料になるケシが栽培されているという。ゲレロ、シナロア、ドゥランゴ、チウアウアの4つの州で盛んに生産されている。メキシコ政府はこの作付面積から生産されたケシの3分の1は押収して焼却しているとしている。しかし、実際には年3回収穫されているということがアムステルダムの薬物研究協会の調査で明らかにされている。だから、米国市場で消費されるのに十分な量を供給できているという。
しかも、その栽培はパパイヤ、レンズ豆、トウモロコシ、カボチャといった作物と一緒に行われている。つまり、ケシだけの専業栽培ではなく、一見すると普通の農家が栽培しているのだ。このことが、カモフラージュとなり、よりわかりにくくなっている。ゲレロ州の農家では、雨季はキロあたり6000ペソ(35000円)、乾季は20000ペソ(117000円)を受け取っているという。シナロア、ドゥランゴ、チウアウアの3州では価格は少し高くなるそうだ。
さらに、農家で栽培されたケシを手に入れるべくカルテル同士の戦いもあり、最近11年間で25万人が殺害され、3万2000人が行方不明になっているという。(参照:「
CONTRA LINEA」)
1980年代から90年代はコロンビアのカルテルが世界の麻薬の生産そして販売を支配していたが、現在はメキシコのカルテルがそれに代わっている。ただ、チャポ・グスマンが刑務所で服役して以来、メキシコ国内最大級の犯罪組織であったカルテル・シナロアの勢力は後退し、現在メキシコのカルテルは群雄割拠の状態が続いているのだ。
<文/白石和幸 Photo by
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しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。