理系社員がグローバルで活躍するために必要なビジネススキル
山口:東京エレクトロン株式会社は、海外でも15の国と地域、46拠点でグローバルなビジネス展開をされています。新しい業務、新しい国にアレルギーを持たないということですね。
三田野:海外でビジネス展開する相手方は、日本でビジネスをする相手方に比べて、格段に多様性に富んでいます。自分には想像もつかないような経験や考えた方をしている人も多いわけです。そうした人たちに対応できる、いわば多様性への対応力が求められるのです。
山口:コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、タスクマネジメント…さまざまなグローバルスタンダードのビジネススキルの中で、日本の若手ビジネスパーソンが、これだけは身に付けておいた方がよいスキルがありますか。
三田野:語学はもとより、いずれも必要なビジネススキルだと思いますが、聞き手の気持ちや状況を捉えて、聞き手の質問や反論をあらかじめ予想してプレゼンテーションすることが、特に、海外ビジネスにおいては必要不可欠です。
自分とは異なる経験や考え方をしている人の気持ちや状況を理解してプレゼンテーションをしないと、日本では通じていたかもしれないプレゼンテーションが全く通じないなどということがよく起きます。
山口:三田野さん自身、技術部門から、マーケティング、営業へと、専門分野を大きく超えて異動されていますね。一見、技術部門と営業部門は、活用するビジネススキルが異なり、隔たりが大きいように思えますが、どのようにチャレンジしてきたのですか。
三田野:営業は、お客さまの意図を理解し、再構成し、提案するプロセスだと思います。実はこのプロセスは、理系の学生が得意とすることなのです。必要に応じてフレームワークにあてはめ、分類したり分析したりして、パズルを読み解くように、仕様を固めるように、お客さまの意図を起点に営業プロセスを組み立てていくからです。
山口:技術でも営業でも、突き詰めていくと必要なスキルには共通項があり、要は、スキルの活かし方次第ということですね。
三田野:技術と営業に限らず、国内ビジネスと海外ビジネスの関係でも同じことが言えると思います。程度や難易度の差はありこそすれ、相手の気持ちや状況をふまえてプレゼンテーションするという課題は、国内ビジネスにおいても海外ビジネスにおいても共通です。
山口:私は横浜国立大学で工学修士課程の大学院生にグローバルスタンダードビジネススキル演習をしていますが、発揮したいスキルを分解してコアスキルを見極めると、専門の技術分野で繰り出してきたスキルを、営業分野で活用できるスキルがたくさんあることに気づきます。理系のビジネスパーソンが活躍する余地は、まだまだ大きいように思います。
三田野:世界に秀でた技術力が、わが国の産業発展を支えてきました。日本が世界の技術革新をリードし、技術大国としてさらに貢献していくためには、理系ビジネスパーソンをもっともっと増やすべきです。
そのためには、理系の大学には入りにくいというハードルを下げる必要があるでしょうし、さかのぼれば、高校の数学や物理の授業をさらに魅力的なものにすることが必要だと思います。文系社員に加えて、理系社員が統合技術を駆使して、わが国のビジネスパーソンがグローバルビジネスをリードしていくことが期待されます。
<対談を終えて>
山口氏
統合技術を発揮するために、固定観念を排除し、新分野へのアレルギーが起きないようにする、そして、多様性に富む相手の気持ちや状況をふまえたアクションを行うことがビジネス伸展に不可欠だという三田野さんの話に、強く共感しました。
理系の大学生や大学院生が、砂地に水を吸収するがごとく、水を得た魚のごとく、急速にビジネススキルを体得していく姿に接している私は、理系ビジネスパーソンがビジネススキルをますます高め、さらに高いパフォーマンスを発揮していくだろうことを確信しています。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第77回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。