働き方改革で「センサー」を1週間身につけたゲーム開発会社に起きた変化

 昨今、「働き方改革」が叫ばれている――。  働く人たちの個々の事情に応じ、多様な働き方を推進する働き方改革だが、その効果を実感できている人は限られている。また、経営者側もリモートワークを導入したが成果が見えず、まだ手探り状態というのが本音だろう。  そんななか、最新のテクノロジーを用いて、より働きやすい環境を作ろうという試みが進んでいる。
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【城倉亮】‘04年、東京大学卒業後、大手航空会社、日系コンサルティングファームを経て、’12年株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)入社。グループ人事労務を担当する部門のマネジャーとしてグループ各社の人事業務を支援。その後、ITベンチャー企業での人事を経て、’15年10月リクルートへ復帰し、現職

「人」と「組織」に関する研究機関であるリクルートワークス研究所が、「センサーデバイス」を駆使して、人事課題を解決しようというプロジェクトを進めているのだ。 同研究所研究員の城倉亮氏に聞いた。

リクルートが挑む、仕事の「見える化」とは?

――センサーデバイスを活用して人事データに活かすというのはどういうことでしょうか? 城倉亮(以下、城倉):私たちは、人事データには2種類あると整理しています。業績や上司による評価や適性検査といった主観による判断を多く含む「伝統的な人事データ」と、テクノロジーを用いて行動データを収集、分析し、この人がどういう行動特性があるのかを客観的に明らかにする「新しい人事データ」です。  これまで日本では前者が着目されてきました。しかし、我々が行ったのは、音声や体の動き、位置情報などをセンシングできるスマホサイズのデバイスを首から下げることで、その人がどこにいるのか、誰と会話をしているのかといった客観的なデータを収集・分析し、個人の働き方を「見える化」することです。 ――センサーデバイスは自社で開発したのですか? 城倉:米「Humanyze」(※1)社が開発したウェアラブル端末であるソシオメトリック・バッジを使用しています。 ――働く側にはどのようなメリットがあるのでしょうか? 城倉:大きなメリットは、自分の行動スタイルを客観的なデータで正確に把握できることだと思います。自分では「よく話す」タイプだと思っていたのに、データを収集して分析したら「聞き上手」だった、なんてこともあります。自分の行動スタイルを正確に理解することができるようになります。
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3人に1人以上が自分の行動について実際とは異なる認識を持っていた

――その結果、働き方がどう変わるのでしょうか? 城倉:極端な例かもしれませんが、聞き上手な人ばかりが集まっているチームには、よく話すタイプの人に入ってもらうことで、チーム内のコミュニケーションを円滑にして、チームの活性化を促すというようなことが考えられます。 ――経営者にとってはどんなメリットがあるのでしょうか? 城倉:今までの働き方改革は、労働時間を削ることばかりに目が向いていて、労働の質を改善しようという議論にはなかなかなりませんでした。しかし、デバイスを活用し、個人の行動特性がはっきり可視化したことで、より効果的な働き方をフィードバックできるようになります。また、データ活用を進めることで、組織全体の人事課題を解決できるかもしれません。 ――ただ一方で、センサーを身につけることに「自分の行動を監視されている…!」と、抵抗感を覚える人もいるのでは? 城倉:たしかに、自分の行動を管理されているように感じてしまう人もなかにはいるでしょう。その点は我々も懸念しています。以前、ディー・エヌ・エー (当時:DeNA Games OSAKA)と1週間、デバイスを活用した実証実験をしたのですが、あらかじめ丁寧に説明し、可能な限りデータを開示することで、その点を解決しました。 ――具体的にどのようなことを説明されたでしょうか? 城倉:まず不安を感じられやすい収集するデータについて「みなさんの会話の内容については記録されず、発声の有無や声の大きさやトーンのデータを取得します」と、ありのままを伝えて、誤解されないように努めました。
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「監視されている」と、思われないように努力した

――声の大きさやトーンでも行動は分析できるのですか? 城倉:今回の実証実験ではそれらのデータは分析していませんが、可能性は十分あると思います。たとえば怒って、会話が速くなったり、声が高くなったりする人もいるでしょう。それを分析することで、その人の感情の起伏をある程度、予測できると言われています。 ――では、どのような情報を収集したのでしょうか? 城倉:発声の有無以外では、位置情報と体の動き、ほかのデバイスとの通信履歴を収集しました。誰と誰がよく会話しているのか、会議室にどのくらいの時間滞在しているのか、あるいはその人が社内でどのくらい動き回っているのか、あるいはじっとしているのかですね。 ――そもそもディー・エヌ・エーと実証実験を行った経緯は? 城倉:かねてから実験協力を複数社に呼びかけていたところ、ディー・エヌ・エーから協力いただけるとの回答をいただきました。また、企業のなかで、ゲーム開発チームの関係性強化のために、コミュニケーションを可視化できないか、と議論もされていたため、実施が決まりました。 ――実証実験を行ってみての反応はいかがでしたか? 城倉:最初は抵抗感を示す声も一部あったようですが、先ほど述べたとおり、データ収集の不安を取り除くことで、多くの社員に実験に参加してもらえました。実験後には「またやってみたい」「もっとリアルタイムで情報がほしい」と、好意的な反応をいただけました。
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実証実験の結果は自信につながった

――センサーデバイスを使って、働き方を変える際の注意点はありますか? 城倉:このセンサーデバイスはあくまで個人の行動パターンを見える化する「健康診断」のようなものです。本来であれば、得られたデータをもとに、個人や組織が働き方を変えなくてはなりません。なので、一度だけでなく、二度、三度と定期的に自分の働き方を振り返ってみてほしいですね。 ――働き方が可視化されると、意識も変わるものなのでしょうか? 城倉:最初はどうしてもハードルを高く考えがちですが、実際に着用してみたら「面白い!」という声も多かったようです。また、体重計に毎日乗り続けるダイエットがあるように、人というものは自分の行動が見えると、無意識にそれを変えようとするものです。自分や組織の働き方を変えたいとき、まずは自分が何に時間を使っているのか一度、見直してみると、よいかもしれません。 ――城倉さんから見た、働き方改革が必要だと思う業界は? 城倉:飲食や小売といったサービス業は、どうしても「労働時間が長い」「生産性が低い」といったイメージで語られがちです。そのため慢性的な人材不足になっていますが、働き方を変えていくことで、大きな変化が生み出せる業界でもあると思っています。 ※1 ボストンに本社を構え、ウェアラブルセンサーを用いて企業・組織に存在するさまざまな課題を明らかにし、その解決に向けたソリューションを提供する、ピープル・アナリティクス専業のソフトウェア会社 働き方改革 【城倉亮】 ‘04年、東京大学卒業後、大手航空会社、日系コンサルティングファームを経て、’12年株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)入社。グループ人事労務を担当する部門のマネジャーとしてグループ各社の人事業務を支援。その後、ITベンチャー企業での人事を経て、’15年10月リクルートへ復帰し、現職 <取材・文/井野祐真(本誌) 撮影/山田耕司(本誌)> 提供:株式会社リクルートホールディングス
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