bee / PIXTA(ピクスタ)
裁量労働制の対象範囲を拡大する法案の、国会提出が先送りされることになりました。国内外企業数社で人事部長を務め、裁量労働制の導入や対象者の拡大に取り組んできた経験をふまえますと、この裁量労働制、実はさまざまな点で誤解されているようです。
●誤解1 裁量労働制の人は残業手当が支払われない
誤解の第一は、「裁量労働制は残業手当が支払われない」というものです。会社から、「あなたは裁量労働制なので、残業手当が払われる対象ではありません」「残業手当は既に月額の給与に含まれています」…このような意味の説明を受けた人は多いのではないでしょうか。
このような説明を聞けば、普通は、残業手当が一切支払われないと思ってしまうものです。確かに、裁量労働制は1日の実際の労働時間に関わらず、1日労働したものとみなす制度です。例えば、みなし労働時間が9時から20時までだとして、19時まで働こうが、21時まで働こうが給与に変更が生じないし、残業手当が支払われるわけではありません。
しかし、裁量労働制でも残業手当が支払わなければならない場合があります。午前5時以前、午後10時以降の残業を深夜残業といいますが、深夜残業手当は、裁量労働制の人にも支払わなければならないことが法律で決められているのです。従って、裁量労働制の対象であったとしても、勤務時間の管理を行って、深夜残業が発生したら、深夜残業手当支払の手続きをすることをお勧めします。
●誤解2 裁量労働制の人は勤務管理表にみなし労働時間を記入
中には、「あなたは裁量労働制なので、勤務管理表には、実際の出退勤時刻にわらず、みなし労働時間である9時出勤、20時退社と入力してください」と言われたことがある人もいるに違いありません。
これも誤解です。裁量労働制の人は、給与は実際の労働とは関係なく支払われますが、実際の労働時間を会社が勤務管理していかなければならないことが、これも法律で決められています。
裁量労働制の人も、そうでない人も、勤務時間管理をして、過長労働にならないようにしていかなければなりませんし、朝5時以前、22時以降の深夜残業手当は裁量労働制の人も支払われるのですから、実際の勤務時間管理をしてく必要があるのです。
もし、裁量労働制にもかかわらず、勤務管理表は毎日決められた時間を入力したくださいという指示を受けていたとしても、実際の労働時間の記録はとっておくことをお勧めします。
●誤解3 裁量労働制なので、勤務管理表の入力は不要
さらに、「裁量労働制なので、勤務管理表入力が不要」という会社もいまだ散見されます。これも大きな誤解です。裁量労働制でも、実際の勤務時間の管理が必要なのです。
勤務時間の管理方法は、タイムカードでなければならないとか、勤務管理システムを導入しなければならないとか、方法が細かく決められているわけではありません。システムでも、エクセルでも、手書きのものでもよいのですが、実際の勤務管理の記録は必要なのです。
社員数50人以上の会社は、2、3年に一度は労働基準監督署の臨検が必ず実施されると言ってよいと思いますが、その際に、最初に提出を求められる項目です。