江府町の道の駅「奥大山」でも「1300年祭」に合わせた菓子や蕎麦などが並ぶ
このように、自治体や地元企業が進めている「1300年祭」だが、肝心の地元住民のすみずみにまで浸透しているとは、まだ言い難いのが現状だ。山陰で開業するホテルやレストラン30軒以上のコンサルティングを手がけてきた有限会社クレイドの平尾貴志氏は「米子でも何かあるらしいね、という人も多い」と語る。
平尾氏は「たまたま1300周年だからやるのではなく、大山の自然をこの先ずっと残すための何が必要なのか。これを機に、みんなで共有していくことが重要だ」としつつ、「大山の水の恩恵を受けているのは米子の人。地元の人間が大山の価値を再び見出していかなければいけない」と話し、「最近ではネットの普及で画像や動画で見ることはできるけれど、体験は実際に来てもらわなければできない。そういった人をどう呼び込むかといったことが地方創生における課題」という。
その突破口はどこにあるのか。「若い人のUターンも増えているし、この土地が気に入って住み着く他の地方出身の人もいる」という平尾氏は「地元から出たことがない人間はその地方の良さに気づいていないことも多い。外の水を飲んではじめて大山の水が美味しいということが分かる。外を知る人を発信者へと育てる必要がある。そのためのサポートができれば」と語る。
米子の隣町でもある境港市は、水木しげるの出身地として「ゲゲゲの鬼太郎」の街として全国から200万人以上の観光客が訪れる。それでも、1993年に妖怪をモチーフにした銅像を置いた際には住民の反発があったという。しかし、翌1994年に境港を訪れた人が10倍以上の28万1000人になったことによりその意識に変化が生まれ、現在ではすっかり定着した。大山をめぐる地域活性化の取り組みも、長期的な視点でその魅力を再定義し、多様な人々を巻き込んだ取り組みを続けていくことが成功のカギを握るのではないだろうか。
<取材・文・撮影/ふじいりょう>
ふじいりょう●1976年生まれ。ウェブ上で政治・社会・メディア情報から、東京の音楽・アート・文芸などのカルチャーシーンについて取材執筆活動を行っている。主な活動媒体は『ガジェット通信』『Z TOKYO』など