出番は一人1秒、72人で一役を演じるグリコの新企業動画がスゴい!

「ひとつぶ300メートル」(グリコ)や「おいしくてつよくなる」(ビスコ)といった印象的なキャッチフレーズで知られる江崎グリコ。「おいしさと健康」という企業理念を掲げてきた同社の新たな企業広告が話題を呼んでいる。なんと“72人一役”という内容だ。

ウェブ動画ならではの表現にこだわった

 smile.Glico『71.8秒のLIFE』というタイトルのこの動画は、YouTubeのグリコ公式チャンネル、グリコホームページで公開中。公開からわずか3週間で視聴数が600万回を突破した。世界人口の平均寿命である「71.8歳」を一人の人生に置き換え、実年齢0歳から71歳までの女性、総勢72人が一人1秒ずつ同じ人物を演じた。グリコを代表するさまざまな商品が登場し、ミュージカル調でストーリーが展開していく同作。制作の裏側を探るべく、同社の広告部クリエイティブチーム・チーフの増田和浩氏に話を聞いた。まずはいくつもの商品が登場することからもわかる通り、商品単体ではなく企業としての姿勢を訴えているのが印象的だ。 「創業からもう少しで100年になりますが、創業者の江崎利一がグリコを創った当時は、お子さんに栄養が足りていないという時代背景がありました。その中でおいしいものを食べてもらい、病気にかからない身体をつくる、つまり健康であることを考えて、グリコーゲン入りのキャラメル=グリコを作ったのが会社の始まりです。うちは企業理念が『おいしさと健康』なのですが、その考え方は創業からずっと続いています。また、ビスコも初めは幼児に向けた、酵母入りビスケットとして作られましたが、今では大人の女性やずっと食べ続けているシニアの方など、幅広く愛されるお菓子になっています。単に子ども向けの商品ばかりではないというところも伝えたかったのです」  少子高齢化・健康長寿の時代において、「食べるものがあなたの笑顔と健康をつくる」というグリコの事業そのものを言い当てたコピーが入っているのは、まさにそういう狙いがあったのだ。 「グリコではいつの時代もおいしいということだけでなく、心や体の健康も併せて提案してきた歴史があります。例えばアーモンドチョコレートの『カリッと青春』というキャッチコピーには『カリッと』という“物性の商品価値”と『青春』という“情緒価値”が入っていました。たくさんおいしいものがある中、その商品を食べることでどう生活が豊かになるのか……。その表現方法はさらに深化してきていると思います」  ミュージカル仕立てになっているのも、ウェブ動画という形式が要因の一つだという。 「あまたある動画の中でも、歌や動きのあるものは好まれますし、観てもらいやすいので、ミュージカル調の作品としました。また、グリコのイメージ調査では他社に比べて『楽しい』『元気がある』『ワクワクする』という単語が多く出てきます。そういったブランドイメージや、会社のキャラクターを表す上でも、マッチしていると思います」  長尺の作品ではあるが、それもウェブ動画だからこそ可能な表現だ。 「ウェブ上では観る価値のあるものであれば、尺が長くても視聴していただけます。企業側のメッセージを届けるだけではなく、観たあとに何が残るか、観てよかったなと思えるかどうか。そのあたりが企画の方向にも出たと思います。また、観ていただく人を意識して作りやすいというか、制作段階で20歳以上の大人の方に観てもらおうという前提で、地上波に比べてお客様の姿がイメージしやすい印象がありました。グリコは昔からお菓子を作っているので、『子ども向けの会社なんじゃないか』という先入観を持たれている方もいます。たくさんの商品があって、大人の方も楽しんでもらえるものや、健康に根ざしたものもあるということを知っていただきたいという思いがありました」

人気商品も見どころのひとつ

 ウェブ上でどうインパクトを残し、企業の持つ表情を伝えるか……。世界人口の平均寿命71.8秒をテーマにすることが決まると、すぐに“72人一役”というアイデアが生まれたという。 「無茶な撮影ですが、だからこそやろうという気持ちになりましたし、そこに賭けてみたいという思いがありました。仕上がりは誰も想像できないので、『本当にいいものができるのか?』という見方もありました。しかし必ずいいものになる、という確信があり、どうしてもやりたかった。それを熱意でやりきったというのが正直なところですね」  実年齢0歳から71歳の女性を72人揃え、一人につき約1時間かけて撮影。その動きを1秒ずつ繋いでいくというのは、かなり緻密な作業だ。 「だからこそ観ている方にも“スゴみ”が伝わるかなあと思います。コツコツ積み上げる撮影だったので、現場の熱が入っていますし、前後の動きも撮った上で1秒だけ使っているので、一番いいところが繋ぎ合わされているのではないでしょうか。例えば、0歳の赤ちゃんは演出のしようがありませんが、自然に捉えられた素敵な表情が収まっています。大人の方は踊りが入っているので、そちらも大変でしたが、いい笑顔が撮れましたね」  また、主人公の女性と同じく印象に残るのが、ビスコ、パピコ、ポッキー、ジャイアントコーン、アーモンド効果、BifiXヨーグルトといったグリコを代表する商品の数々だ。 「各商品を買っていただいているお客様の層と、食べられている象徴的なシーンをイメージし、それを今回のストーリーとうまく絡み合うように構成していく中で、あのラインナップになりました。例えばビスコは幼い頃食べるというのはイメージしやすいと思います。ポッキーはみんなでシェアすることが多いので、結婚して友人が家に遊びに来た時に登場しています。そこでちょっと意外に思われるかもしれないのが、結婚して夫婦で家事をしながら食べているジャイアントコーン。子ども向けっぽいイメージを持たれるかも知れませんが、実は今一番食べていただいているのはビジネスマンと主婦の方なんです」  1秒ずつ変わっていく出演者の表情や、さりげなく登場する商品の数々……。何度も観たくなるほど情報が詰まっているのも、ウェブ動画ならではだ。そんな中でも、最大のメッセージは冒頭でも語ってくれたグリコという企業が持つ本質に根ざしている。 「『一生と関わるグリコ』というテーマで、やはり『食べた人に笑顔で健康になってほしい』というのが一番のメッセージです。商品のことをわかってほしいというのももちろんですが、そういったグリコという企業の“人格”を伝えることが目標でした」  あっという間に大きくなっていく少女の姿は、グリコの商品に親しんできた消費者の姿でもあり、「おいしさと健康」という企業理念を守りながら成長してきたグリコそのものの姿でもあるのかもしれない。 <取材・文/HBO編集部 撮影/浜田智則> 提供:江崎グリコ株式会社
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