なぜ日本人は遅刻に異様に厳しいのか? 他国の人との比較から考えてみた

「閉」ボタンを押す

「閉」ボタンを押すのは「礼儀」だと思ってるのは日本人だけのようで…

エレベータの「閉」ボタンを押す日本人を外国人は理解できない

 そんな日本の時間厳守の文化に関して、昨年、BBCやNew York Timesといった海外主要メディアが大きく報じたニュースがある。つくばエクスプレスの「フライング発車」における一件だ。  首都圏新都市鉄道によると、昨年11月、本来ならば午前9時44分40秒に発車するはずのつくばエクスプレスが、20秒早い9時44分20秒に発車。分単位で示される時刻表上では「定刻通り」の運行で、乗客から「乗り遅れた」などの苦情を受けたわけでもなかったが、それでも会社側は後日、ホームページで経緯を説明し、謝罪した。  2分の遅延で「深くお詫び」する電車アナウンスは、もはや日本の常識となりつつあるが、早発20秒での謝罪は、さすがの日本人でもざわつくところ、外国人にとってどれほどの衝撃だったかは想像に難くない。  筆者の周りでも、「日本人は20秒で伝説を作った」、「新手の宣伝なのでは」「さすが日本人の“20秒前行動”」と驚きの声が上がった。  こうした日本人の時間的感覚を称賛する意見がある一方、それを「せっかちだ」とする考えも中にはある。エレベーターの「閉める」ボタンがいい例だ。  現在のアパートに引っ越してすぐのこと、下階から上がってきたエレベーターに乗り込んでボタンを操作した筆者に、先乗りしていた管理人がこんなアメリカンジョークを掛けてきた。 「どんなに急いでも、このエレベーターで行けるのは12階(最上階)までだぞ」 「この人は一体何を言い出すんだ」と一瞬訝しんだが、彼の目線の先に、さっき自分が押した「閉める」ボタンを見つけ、その真意を理解した。  日本では何の気なしに押される「閉める」ボタンだが、アメリカでは、めったに押されることはない。1プッシュで無駄な2秒をそぎ落とそうとする日本人に対し、「放っておけばいずれ閉まる」というのが彼らの考え方なのである。  いまいちピンと来ない彼の笑いのセンスに、エレベーターと合わせて口角を「上に参ります」して適当に対応しながらも、ワンプッシュで生み出される2秒の存在に気付かされ、その使い道を考えながら自階に降りるに相成った。  こうして外国人と日本人の時間的感覚を場面ごとに比較していくと、日本人の時間的感覚に、ある現状が見えてくる。それは、始業時間や待ち合わせ時間、無駄な時間にはこれほど厳しいのに、終業時間にはとことんルーズであるという点だ。  ニューヨークのカフェでは、閉店時間30分前にもなると、店内の客に構わず椅子上げやモップ掛けを始め、「閉店時間」に帰宅しようとするスタッフをよく見かける。以前筆者が働いていたオフィスでは、終業10分前になると、肩にカバンを掛けて残りの仕事を片付けるスタッフもいた。  日本人からすると、こうした勤務態度は、決して褒められたものではない。しかし、何としても定時に仕事を終わらせようとする彼らを目の当たりにすると、終電まで仕事を続ける日本人の姿は、果たして「褒められたもの」なのだろうかと、ふと考えさせられるのだ。  国内で「働き方改革」が叫ばれて久しい。  顔を突き合わせて長時間働くことが美徳とされてきた今までの労働体制から、残業時間の見直しや削減を進めていくには、仕事量に合わせて労働時間を産出する元来のカタチを、労働時間の範囲内でできる仕事量を逆算し、生産性や効率性を高める方法へ180度方向転換する必要がある。それは「改革」というより、もはや「変革」といっていい。  染みついた習慣を大きく変えることは容易なことではない。が、15秒単位で電車を走らせ、1プッシュで2秒を産み出せる、この“世界最高精度の針”は、こうした難しい逆算をする時にこそ大きな力を発揮するのではないだろうか。 【橋本愛喜】 フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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