経済成長中のタイで人気のドラッグレース。ディーゼルエンジンのチューン技術はアメリカでも絶賛
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<取材・文・撮影/高田胤臣>
クーデターなどの影響もあり、2013、2014年と経済成長率はやや低調なタイだが、それでも自動車産業を中心に国内・ASEAN市場を狙う大型投資があり、今後は投資額も大幅に増加するだろうとされているタイ。
そんなバブリーなタイはこの数年、モータースポーツが盛んになっている。政治不安のせいで2015年は開催カレンダーにタイの名前はなかったものの、F1の誘致活動も熱心だ。
そして今、タイで最も人気を集めているモータースポーツシーンはドラッグレースなのだ。
ドラッグレースはアメリカ発祥の直線1/4マイル(402.33m)で競うものだ。タイでは不良少年たちがバイクで競ったりすることからかとても身近なレースで人気が高い。東南アジアということでアメリカのまねごとをしているだけかと思えば実はこのドラッグレース、かなり本格的だったりする。
日本のドラッグレースでは1000馬力級のFR車で8秒台前半だそうだが、タイでは8秒を切るスピードで走る。しかも、それがディーゼルエンジンを魔改造したピックアップトラックだというのだからすごい。このピックアップトラック、8秒半ばで大体時速250~270kmに達するそうなのだが、日本販売価格が1億円もするマクラーレンP1で停止状態から時速300kmまでの加速が16.5秒かかるというから、その恐ろしさがわかるというもの。
一般的に言われるディーゼルエンジンの特性はガソリンエンジンに比べて加速力があるので、確かにドラッグレース向きではある。とはいえ、タイにおけるディーゼル改造スキルは世界でも類を見ないほどで、本場アメリカでも賞賛されているとか。
そんなタイのドラッグレースの現場を見るべく、12月6~7日に開催されたタイ最大のドラッグレース・フェスティバル『Top10 DragStars SOUPED UP Thailand Records 2014』に行ってきた。参加車両は一般車両の改造車からアメリカではトップフューエルと呼ばれるドラッグ専用車まで揃っている。
参加車両には日産のセフィーロ、ピックアップトラックはいすゞのD-MAXが多い。これにはわけがあった。
「中古の出玉があって安いからですね。パーツなど大半が輸入物なので、カネがかかりますから」
今回このレースを案内してくださった、タイ・モータースポーツに詳しい藤田さんが教えてくれた。タイは車関係の関税や重量税などが高く、タイ国内生産車両であっても日本の1.5~2倍は高い。タイとはいえモータースポーツに参戦するには金がかかるのだ。そのため、ベースが安いに越したことはない。
23歳のアヌワットさんが駆るD-MAXは車体こそオリジナルでありながら、中身はすべて改造されている。
「ギアはアメリカ製で、大体830馬力以上は出ています」
市販状態で130馬力の車をここまで改造したが、それでも8秒台に届くかどうか。8秒を切るピックアップはさすがにフレームからなにからすべてが特製品で、外側にオリジナル風のカーボンボディを使う。ここまで改造すると1000馬力前後になり、調子がよければ7秒台に入れる。
決勝は1台ずつのタイムトライアルだった。観客は目当ての車が来ると歓声を上げる。開始時間も19時からと遅いながらも両日で1万人を超える観客が訪れたようである。爆音と排気ガスのにおい、タイヤを溶かすバーンナウトの白煙。アウトローな雰囲気に観客を酔いしれていた。
今年は2年連続でトップフューエル型の「サイアム・プロトタイプ」が7.466秒で総合優勝、2位はプロ6というクラスのセフィーロで8.074秒、3位にトヨタ86が8.157秒を叩きだした。今大会ではピックアップは8秒台に乗れず、トップ10には1台も入れなかった。昨年は2位にいすゞD-MAXが7.831秒で入ったが、今年は期待されたほどではなかったようだ。
タイ・ドラッグレースはバイク大会も別途あり、先日はイベントかなにかで耕耘機を魔改造したマシンが登場したという。タイのドラッグはとにかく熱いのだ。
(Twitter ID:@NatureNENEAM)
たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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