「#Metoo」「ブラック・ライブズ・マター」を活かせなかったグラミー賞が寒かったワケ

林泰人
 1月28日に行われた「第60回グラミー賞」の授賞式。年間最優秀アルバム、年間最優秀レコード、年間最優秀楽曲とブルーノ・マーズが主要部門を制覇した。しかし、この結果が波紋を呼んでいる。

女性アーティストがパフォーマンスを拒否

 そもそも、今年のグラミー賞は授賞式の前からケチがついていた。年間最優秀アルバムにノミネートされていた女性歌手ロードが、授賞式でのパフォーマンスを拒否すると発表していたのだ。ロードはニュージーランド出身の21歳。グラミー賞受賞経験もあり、各国のチャートで数々の女性ソロアーティストの記録を破ってきた実力派シンガーだ。



 拒否した理由は、年間最優秀アルバムにノミネートされたアーティストのなかで、唯一単独でのパフォーマンスをオファーされなかったからと報道されていた(トム・ペティ追悼パフォーマンスへの参加をオファーされていた)。

 さらに授賞式直前の26日には、ロードの母親がツイッターに「これにつきる」と「ニューヨーク・タイムズ誌」の記事を投稿。その内容は過去6年間のグラミー賞でノミネートされたアーティストのうち、女性アーティストはわずか9%しかいないというものだった。

 近年、エンタメ業界はもちろん、アメリカ社会を揺るがせている問題と言えば、ご存知のとおり「#Metoo」。ハリウッド大物プロデューサーへの告発をキッカケに、セクハラ問題や性的暴力、職場での女性蔑視について議論を呼びかけている抗議運動だ。1月に行われた第75回ゴールデン・グローブ賞の授賞式では、こうした抗議運動に賛同するスターたちが黒ずくめの衣装で出席したことも話題となった。

 そんなタイミングなだけに、年間最優秀アルバムにノミネートされた唯一の女性アーティスト、ロードのパフォーマンスは例年以上に注目されたはずだ。ところが、グラミー側がオファーしたのは他アーティストとの共演によるトム・ペティ追悼ライブ……。結果、パフォーマンスそのものを拒否されてしまうこととなった。

社会性たっぷりのケンドリック・ラマーも及ばず

ケンドリック

批評家からは圧倒的に支持されていたケンドリックだが、主要部門ではまるで勝てず

 もうひとつ、近年のアメリカ社会で大きなムーブメントと言えば、「ブラック・ライブズ・マター」。黒人に対しての警官による暴力事件への抗議運動だ。年間最優秀アルバムの候補者で「#Metoo」問題を象徴するアーティストがロードだったとすれば、「ブラック・ライブズ・マター」を象徴していたのはケンドリック・ラマーだろう。

 ケンドリック・ラマーはカリフォルニア出身の30歳。’12年に『Good Kid, M.A.A.D City』でメジャーデビューすると、あっという間にヒップホップ界のトップに君臨。’15年に発表した『To Pimp a Butterfly』はオバマ前大統領がお気に入りに挙げ、ホワイトハウスにも招待された。

 今回、年間最優秀アルバムにはケンドリックのほか、俳優としても活躍するチャイルディッシュ・ガンビーノ、もはや説明不要のジェイZとヒップホップのアーティストが3組ノミネートされていた。しかし、ジェイZは授賞式でのパフォーマンスを辞退、チャイルディッシュ・ガンビーノもアルバムセールス・レビュー双方において、ケンドリックに比べてやや小粒。リリックの社会性も含め、「ブラック・ライブズ・マター」を象徴するアーティストを選ぶとしたら、ケンドリック一択だったわけである。

 授賞式でのパフォーマンスでも、ケンドリックは一歩リードしていた。全身を真っ赤なマントに包んだダンサーを従えてラップすると、リズムに合わせて次々とダンサーたちがステージ上で倒れ込んでいく。さらには巨大なアメリカ国旗をバックに、軍服を着たパフォーマーたちが登場……。ビジュアル面でも観る者を惹きつけた。

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批評家からの評価はケンドリックとロード

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