それではこうした表情の誤認識から生じかねない暴力行為を防ぐ、つまり、非行を未然に防ぎかつ非行少年がこれ以上、不必要な「敵意」を他者から感じないようにし、少年たちが平穏に過ごせるようにするにはどうしたらよいでしょうか。
表情認識トレーニングを教育の一貫に取り入れる、という方法が考えられます。他者の表情を正しく読みとれるようになれば、他者が伝達しようとしているシグナルも正しく読みとることが出来るようになります。
幼少期の環境が非行少年に他者の表情含め社会的状況を過剰に危険なモノであると認識するようになった、そのような環境に適応するようになった理由があるはずです。例えば、誤認があったとしても社会が過剰に危険なモノであると仮定しておく方が自分が安全に生きられた、そんな悲しい理由が考えられます。
不幸なことに幼少期はそうだったかも知れません(もしかしたら今もそうなのかも知れません)。しかしもし環境が安全なものに変わっていたとしても、かつての認識・行動パターンのままでは、今、そしてこれからの一般的な社会に上手く馴染むことは出来ないでしょう。
上手く社会に馴染めなければ、反社会的な世界に心地よさを求めて行ってしまうかも知れません。
私たち大人がすべきことは、非行少年らに安心できる環境を用意し、表情認識を含む伝達シグナルの捉え方や一般的なコミュニケーションの方法といった感情教育を施すことだと思います。
そうすることによって、非行少年たちは誤解の再生産の連鎖を打ち切り、安全な社会での生き方、身の振る舞い方を身に付けることが出来、明るい未来を描くことができるようになるのではないかと思うのです。
参考文献
Sato W, Uono S, Matsuura N, Toichi M (2009) Misrecognition of facial expressions in delinquents. Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health 3:27.
Nasby W, Hayden B, DePaulo BM: Attributional bias among aggressive boys to interpret unambiguous social stimuli as displays of hostility. J Abnorm Psychol 1980, 89:459–468.
Dodge KA, Bates JE, Pettit GS: Mechanisms in the cycle of violence. Science 1990, 250:1678–1683.
Price JM, Glad K: Hostile attributional tendencies in maltreated children. J Abnorm Child Psychol 2003, 31:329–343.
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。