ウーマンラッシュアワー・村本大輔は社会風刺芸人なのか否か

どうして芸人が言うことをいちいち真に受けるのだろう

 現政権を支持しない人の中には、日頃から自分の意見をもっと世の中に広めていきたいと思っている人がいる。そういう人たちは、自分の考えがなかなか思うように伝わっていかないことにフラストレーションを抱えている。  そんな彼らにとって、ウーマンラッシュアワーの漫才は痛快な政権批判のように見えた。「私たちの思っていることを彼らが代弁してくれた」というふうに感じられた。彼らはそのように考えて、村本を過剰に持ち上げたのだ。  ところが、『朝生』で彼らの期待はあっさりと裏切られてしまうことになる。村本は特定の政治思想を持っているわけではなかったし、深い見識があるわけでもなかった。あくまでも「不勉強な芸人」という立場から、できる限りでの問題提起をしていただけだったのだ。  それまで村本を「自分たちの代弁者」として支持していた人たちは、この段階で「裏切られた」と感じた。そこで評価が一転して、バッシングの嵐が起こったのだ。  日頃からお笑いを見ている立場から言わせてもらうと、どうして一部の人々はテレビで芸人が言うことをいちいち真に受けるのだろう、と不思議に思う。芸人というのは、目先の笑いを取るためであれば、白を黒と言い、黒を白と言うことも何とも思わないものだ。  ある漫才師がメッセージ性の強い漫才を演じたからといって、そこに彼自身の思想を勝手に読み込むべきではない。本人が実際にそう思っているかもしれないが、別に何とも思っていないかもしれない。芸人とはそういうものだ。  もっと言えば、これは芸人に限った話ではない。テレビに出ている人は例外なくそれぞれの役割を与えられてそこにいる。だからこそ、思っていることを何でもかんでも言うわけではなく、その場で求められていることを言おうとするのだ。番組が面白いものになればそれでいい、というのが彼らの共通認識だ。  『朝生』の司会を務めている田原総一朗も、明らかにそのような考えを持っている。「『朝生』は討論番組なのに結論が全然出ない」などという批判をよく耳にするが、私に言わせれば『朝生』はどう見ても討論番組ではない。話題はあちこちに飛び、大勢の出演者が感情をむき出しにして自説を述べ、会話はちっとも噛み合わない。  司会者である田原も、議論を整理したりまとめたりする方向に誘導することはあまりなく、出演者をつついて議論を錯綜させたり、感情的な反応を引き出したりすることに終始している。  もともとテレビ東京のディレクターだった田原は、テレビの作り方をよく分かっている。テレビは一種の見世物だ。正しいかどうか、まともであるかどうかよりも、面白いかどうかが重要なのだ。  仮に、村本が問題となるような発言をしていなければ、『朝生』がこれほど世間で話題になって注目されることはなかっただろう。  村本は、議論を喚起して、番組を盛り上げるという与えられた役目をきちんと果たした。芸人の使命とは、政治的なメッセージを発することではなく、あらゆる手段を使って人々を楽しませることなのだ。 【ラリー遠田】 ラリー遠田お笑い評論家。東京大学卒業後、テレビ制作会社勤務を経てライターに。漫画原作者、行政書士としても活動。株式会社シンプルトーク代表取締役。『AERA dot.』『日経ウーマンオンライン』『ヤングアニマル嵐』などで連載。『オモプラッタ』編集長も務める。公式ブログ「おわライター疾走」
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