長友佑都の“上から目線”ツイートにイラつく人が多いのは、日本に「社会」が存在しないため<北条かや>

日本では「社会」が存在せず、「世間」のルールが支配

 両者のツイートは共に、次のような構造になっている。 (1)自分とは違う立場の人たちを観察(香取さん「出勤の人の流れを見る」、長友選手「帰国して、久々に日本人を見る」) →(2)観察結果をややネガティブに表現」(香取さん「色がない」、長友選手「猫背で表情暗い」) →→(3)ポジティブなアドバイスに見える主張(香取さん「心カラフルな1日でありますように!」、長友選手「みなさんファイト!」) (2)までであれば、まだ単なる感想にすぎない。しかし残念なことに、(3)ポジティブなアドバイスへの飛躍が反感を買ってしまったように思う。「サラリーマンの事情なんてなんにも知らないくせに、テキトーなこと言うな!」というわけである。  なぜ一部のネットユーザーは、ポジティブなアドバイスにイラっとしてしまうのだろうか。  日本社会を「世間」との関係から論じている佐藤直樹氏によると、  日本では自立した個人からなる「社会」が存在しないかわりに、空気を読み合う抑圧的な「世間」が支配している。(『目くじら社会の人間関係』より)  という。  しかも90年代後半以降、この「世間」のルールがますます厳しくなっているのだ。 「世間」では一見、私たちは「みんな同じ」という人間平等主義がタテマエとされている。職業に貴賎はないし、人々に能力の差はないし、みんなで仲良くしましょうね……。  しかし現実の「世間」は、年上・年下、先輩・後輩、格上・格下など、たくさんの見えない身分で分断されている。私たちは、その場に応じて自分がどの「身分」に属するのか、常にアンテナをはりめぐらせていなければいけない。 「みんな同じだよね」とのタテマエがあるにもかかわらず、社会にはりめぐらされた、見えない「身分制」に縛られているストレス。このストレスに共感できない人は、「世間」から「よそ者」と見なされ、「われわれの辛さを理解できないのか!」とバッシングされてしまうのだ。  香取さんの「(通勤する人たちは色がないから)心カラフルな一日でありますように!」も、長友選手の「(日本人は姿勢が悪いから)みなさんファイト!」も、一部の人たちには「世間のウチではなく『ソト(よそ者)』からの発言」と感じられ、「何の共感力もない身勝手なアドバイス」と受け取られてしまったのだと思う。  特に厳しい「世間」のルールが支配するネット社会では、おちおちツイートもできないのである。あなおそろしや、渡る世間は鬼ばかりだ。 【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど
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