「つばめ」は約2年の運用期間の中で、高度180~300kmの間で軌道を何度か変え、カメラの試験や原子状酸素の観測を行う。「つばめ」はあくまで試験機であるため、これをもって、すぐになにかの役に立つというわけではない。
しかし、「つばめ」の成果によって、高度180~300kmという”未開拓の軌道”を、衛星が安全、安定して飛べる技術が確立できれば、前述のメリットをいかした、新しい衛星の利用方法や需要、ビジネスが生まれるかもしれない。
たとえば衛星が低コストにできるということは、それだけ多数の衛星を打ち上げて、地球を常時観測したり、あるいはある場所を見たいときにすぐにその上空を通過する軌道に乗り移ったりすることができるようになる。
また、地表に近いということは、それだけ細かく観測しやすくなるため、災害が発生した場所などを詳細に観測することで、状況がより把握しやすくなるかもしれない。
さらに、レーダーを使った地球観測は大電力が必要なことから、開発や打ち上げのハードルが高かったが、電力が少なく済む超低高度衛星が実用化できれば、利用の機会が増えることになろう。
まだ実際に具体的な利用の計画があるわけではないが、潜在的には、安全保障や防災、農業や漁業、さらに地球の環境観測などに役立つほか、民間企業にとってもデータの利用、販売で大きなビジネス・チャンスが眠っている。
「つばめが低く飛んだら雨が降る」という言い伝えがあるが、この宇宙を低く飛ぶ「つばめ」によって、恵みの雨が降ることになるかもしれない。
「つばめ」と「しきさい」を載せたH-IIAロケット37号機の打ち上げ Image Credit: 三菱重工/JAXA
<取材・文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・つばめ(SLATS) | 人工衛星プロジェクト | JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター(
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/slats/)
・JAXA | 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)(
http://www.jaxa.jp/projects/sat/slats/index_j.html)
・JAXA | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)及び超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)のクリティカル運用期間の終了について(
http://www.jaxa.jp/press/2017/12/20171224_shikisai_tsubame_j.html)