定年後にタイでリタイヤ生活を目論見、詐欺被害に遭う日本人高齢者が増加

「日本人同士助け合うのが当然」という思い込み

 さらに、S氏はこうも続ける。 「日本人の経営コンサルがなにもわかっていない場合もあります。その人も社内のタイ人に任せっぱなしというケースがあるのです」

バンコクの巨大商業施設。店舗を借りるなど様々な場面で契約書があり、多くがタイ語で作成される。わからないでは済まされないこともあるだろう

 起業でも就職でもタイで働くには労働許可証の申請は必須で、多くの企業がコンサルやエージェントを通して申請する。そして、だいたい1か月近く、ときには3か月くらい発給までに時間を要するなどと言われることが多い。しかし、これもS氏は違うと言う。 「混雑具合によりますが、すべて書類が揃っていれば発給まで15分です。窓口になるコンサルがちゃんとわかっていないか、理由をつけて手数料を取ろうとしているか。いずれにせよ、そんなに時間はかからないんですよ、本当は」  外国では日本人同士助け合うのが当然、という思い込みがあるため、信じ切って任せてしまい、のちのち自分が困ったことになるというのだ。  長年タイに住むある日本人は、欺されるのは高齢者だけではないと前置きしつつ、定年後にタイでトラブルに巻き込まれる人物の傾向を話す。 「かつてバックパッカーだった人、日系企業の駐在経験がある人です。妙にプライドだけ高く、自分が欺されるわけがないと思っている。こういった人の中にはタイ人女性と恋仲になったつもりで会社設立から経営まで任せてしまう人も少なくないですね」

90年代後半にバックパッカーが集まったカオサン通り。今の高齢日本人のパッカー経験者はカオサン全盛より前の世代と見られる

 タイ語も英語もできない人に特に多く、女性のカタコトの日本語にわかり合えたと思い込んでしまう。夜の店で知り合うようなケースが多々あり、ホステス上がりのタイ人女性が会社経営なんてできるわけがないという、ちょっと考えたらわかりそうなことがわからなくなってしまうのだ。

犯人はほとんど日本人

 そこそこにカネを持っている高齢者は不動産や車を購入することもある。しかも、それを女性や知人のタイ人名義にしてしまうのだ。そして、あとでトラブルが起き関係が壊れたとき、返してもらえず、すべてを失ったことに気がつく。この場合は日本大使館に駆け込んだところで対処のしようはないだろう。  ただ、こうしたトラブルはあれど、タイで日本人が被害に遭う詐欺事件の犯人はほとんどが日本人だという。  そもそも、タイでは土地そのものは外国人名義では購入できない。しかし、コンドミニアム(分譲マンション)であれば外国人でも買える。その際に所有権などを示した書類が発行されるが、その書類がただの書式のコピーで、なにも書かれていないケースもあったと、不動産業の日本人は語る。 「高齢の方だと変な自信を持っていて、信頼できるプロに任せず自分でやろうとするのです。その結果、欺される。最悪自分でやるにしても、ちゃんと目を通せば、タイ語が読めなくてもなにも書かれていないことは一目瞭然なのに」  しっかりとした日本人経営コンサルタントや法律関係者はたくさんいるが、欺される人は詐欺師と運命のように出会ってしまうのだ。  確かにタイは第2あるいは第3の人生の場所として非常に魅力ある場所ではある。だからこそ、その夢を叶えるため、今一度現実に自分の身を置いて考えるべきだ。先述した起業のようなケースでも、起業の前にタイ語ができるようになっていればベストだが、「できないならできないなりに提出書類の原本に目を通したり、コンサルや自社の経理担当などと一緒に関係役所に出向くなど対策はある」(S氏)し、逆にわかりもしないのにプロの意見も聞かずに自分でやろうとしないなど、タイで起こる詐欺の大半はよく考えれば防げるようなことが多い。  新たなスタートのときこそ、落ち着いて道を見定めたい。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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