米中貿易戦争への不穏な足音が――日本は中国の「微笑み外交」に楽観視するな

細川昌彦

写真/thierry ehrmann

国連化したWTOに愛想をつかした米国

 世界貿易機関(WTO)の閣僚会議が閣僚宣言を6年ぶりに採択できずに閉幕した。「WTOの機能不全」という、解決策の見えない課題だけが後に残って、WTOはまさに漂流状態だ。また確実に一歩、国際的な秩序が壊れていっているようだ。

 今回の決裂の原因は、自国優先を掲げるトランプ政権がWTO批判を繰り返すだけで、意見集約の努力をして国際秩序を形成しようとの意欲が全くなかったことによる。

 ただ、米国のそういう対応にもそれなりの理由がある。根本問題はWTOそのものにあるのも事実だ。

 WTOは参加164か国の全会一致が原則で、一国でも反対があれば合意ができず、何も決められない国際機関になりつつある。まさにWTOが肥大化の結果、南北対立で二進も三進もいかない国連のようになってしまったのだ。

 先進国の間ではアフリカなどの途上国の抵抗によって、時代に応じた新しいルール作りが全く進まないことに苛立ちが高まっている。しかも驚くことに、今や世界第2位の経済大国となった中国が、未だアフリカ諸国と同列の「発展途上国」として優遇されている。

 ただ問題はWTOだけではない。米国の内政にも問題はあるのだ。

トランプ政権の内政重視から「米中衝突」か!?

 トランプ政権の最大の関心が、国内政治での戦いに勝つことにある。それが外交的にどうかは二の次だ。当面の目標は、来年秋の中間選挙に向けて、自らの支持層を固めることにある。先般のエルサレムの首都認定はその一つだろう。

 国務省高官の多くが未だ任命されていないことから、外交不在で、国務省の無力感が漂っている中で、ホワイトハウスの目は国内にしか向いていない。

 そして通商面ではNAFTA見直し交渉が難航する中で、成果を上げるターゲットに中国を見据えているようだ。トランプ大統領に対しては、大統領候補としては選挙戦で中国に厳しいことを言っていたにもかかわらず、実際のところは何もしていないことへの不満が対中強硬派の議会の中にも出てきている。

 先般のトランプ訪中での総額28兆円の「張りぼて商談」だけでは、さすがに成果だと胸を張るわけにはいかない。中間選挙に向けて、鉄鋼問題などで内陸部の白人労働者層の不満に応えなければいけない。

 しかしWTOでは目に見えた成果は期待できない。自国の法律に基づく関税引き上げや輸入差し止めといった、米国単独での一方的制裁しかない。そこで米国が中国での知的財産権侵害に対して米国通商法301条による制裁を科する公算が大きいと見るべきだろう。

 仮にそうなると、中国も黙ってはいない。米国に対する報復策を講じてくるだろう。例えば、米国からの大豆の輸入制限がそれだ。その結果、米中間で、いわゆる一方的制裁の応酬になりかねない。

 ただし、それが米中貿易戦争というほどエスカレートしていくと考えるのは早計だ。米国企業にとって中国市場でのビジネス展開や中国からの調達が死活問題になるほど、相互依存関係は深化している。中国によるワシントンでのロビーイングも強力だ。中間選挙に向けて、国内向けに対中強硬の姿勢を見せながらも、それを「米中間の小競り合い」というレベルでマネージしようとする力学も働くだろう。

中国の「対日微笑み」外交は、米中関係の裏返し

 共産党大会を終えて、習近平主席の対日外交が「微笑み外交」に転じたとの指摘されている。そして日中平和友好条約締結40周年の来年に向けて日中関係は改善していくというのが大方の見方だ。そこには米中関係が大きく影響している。

 中国はトランプ訪中を破格の大歓待と大型商談で一応乗り切ったが、その後の米国国内の動向から米国の対中政策は厳しい見通しであることを中国側も察知している。その結果、日本との関係は改善しておき、日米の対中共闘を揺さぶるといういつもながらの思考パターンだ。

「日中関係は米中関係の従属変数」

 それがこれまでの歴史の教訓だ。日中の関係改善は歓迎すべきことで、これを機に建設的な対話をするチャンスと捉えるのも大事だが、これを永続的なものと楽観視すると見誤る。日本企業にとって注意を要する点だ。

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中国は「一方的制裁の権化」

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