「目的と手法は異なっていて当たり前」「目的を実現するために数値目標は必要だ」「全国で実施するので全国で目標を定めるべき」……全国一律目標を定め、それを訴求すればするほど、多様性を実現しようとしている企業の感覚からずれていく。
それはまるで、スローガンを唱えれば唱えるほど空回りする、いわば笛吹けど踊らず状態だ。女性管理職30%という全国一律目標は、個々の企業からすると乖離があって当たり前だ。20時一斉消灯として全社の一律の規制は、ひとりひとりの社員の仕事の状況から見れば、違和感を覚えさせて当然だ。
その個別性を斟酌せずに、一律目標を唱えることだけをしていては、各社、各社員を巻き込めないのは自明のことだ。全国一律目標や全社一律規制を設けるなということまでは言うまい。
しかし、全国一律目標や全社一律規制を唱えることが効果を発揮しないどころか、不一致感を増大させ、笛吹けど踊らずといった真逆の状態を生み出してしまうのであれば、少なくとも、喧伝すべきではない。
浸透させるべきは、全国一律目標や、全社一律規制ではなく、ダイバーシティにおける多様性そのものを認める施策や事例そのもので、生産性を高める施策や事例そのものではないか。
それはまるで、商品販売において、全国一律キャンペーンに限界があることと同様だ。全国一律キャンペーンや全国統一話法が、多様化する個別の顧客ニーズに対応できないことは、既知のことなのに、マネジメント施策においては、それが一向に頓着されない。
営業活動においても、社内のマネジメントにおいても、国の政策においても、個別の企業や個人の多様性をふまえるアクションが不可欠だ。そして、それは個別の企業や個人のモチベーションファクター(意欲が高まりやすい要素)を梃にしていくと効果が出やすい。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第63回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。