アジア地域に巣食うIS関連勢力(編集部調査)
過激派組織「イスラム国(IS)」の衰退を報じるニュースが目立った昨年。イラク最大の拠点モスルや、「首都」としていたシリアのラッカが陥落し、“偽りの国”の終焉が見えてきたとする一方、世界ではその後もIS兵士によるテロ事件が頻発している。
テロや中東情勢に詳しい、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(ワシントン)のマイケル・ルービン氏は、現行のIS対策についてこう指摘する。
「掃討作戦によってISの勢力は確かに衰退しつつありますが、問題なのは、そのほとんどがイラクやシリアに対するもので、他の地域がなおざりになっていることです。言うなれば、その構図はチェスに近い。イスラム世界の新秩序構築のため、全対抗勢力を排除すべく他国でもテロを実行しようとする彼らに対し、現在の掃討作戦は、“2つのマス目”に集中していて、“全体のボード”の動向が読めていない。国家樹立の宣言や、独自のコイン発行などからも分かる通り、彼らの目指す標準は、限定的な地域ではなく世界規模であることを忘れてはいけません」
ISの衰退によって起こり得るのは、兵士の「拡散」だ。これまでにイラクやシリアに集結した100か国3万人もの外国人戦闘員が、支配地域の縮小を機に帰国すれば、テロが発生する地域は、むしろ今後拡大する恐れもある。
また、残虐さではISを上回るナイジェリアの「ボコ・ハラム」をはじめ、世界で活動する多くのテロ組織がISに忠誠を誓っているのも、ISの思想が今後も広く生き続ける理由の1つになっている。
「ISの活動動機は、“不満”ではなくイスラム圏の統一という“目的”や“イデオロギー”からなるものです。最高指導者であるアブバクル・バグダディ容疑者のカリフ制国家は、多くの若者や他のテロ組織の心を強く捉えています。そのため支配地域の衰退は、今後もその共鳴を損なう要因にはなりません。ISは今後、アフガニスタンやアフリカのサヘル地帯といった政府の統治力が弱い地域に思想を浸潤させ、過激なテロを企て続けると思われます」