丁寧すぎる説明が逆効果を生む事例は、ビジネスシーンの中で実に多い。先輩が後輩に、上司が部下に対して、ああしろ、こうしろとあれこれ指示をしたり、何度も繰り返して指示をしたりする場面だ。
先輩や上司は、後輩や部下が失敗しないように、親切心から世話を焼いているが、世話を焼かれた後輩や部下は、あれこれ言われるたびに嫌気がさしてきたり、わずらわしくなってきたりする。
プレゼンテーションでもそうだ。話し手が聞き手に伝えたいことを、全て伝えなければならないと思って、説明すればするだけ、解説すればするだけ、聞き手の集中度は下がっていく。
演習経験をふまえれば、こうした丁寧すぎる説明をしてしまう事態には、いわゆる学校秀才の人ほど陥りがちだ。きっちりと説明しつくさねばならない、全て項目を解説しなければならない…こうした生真面目な意識がそうさせるのかもしれない。
例えば、システム・エラーを発見するためには、全ての状況を確認することが必要だろう。朗読をしているのであれば、一字一句読み上げなければならない。しかし、先輩・後輩、上司・部下で、後輩や部下の課題解決をしたり、後輩や部下に気持ちよく仕事をしてもらったりするための働き方は、バグ探しとは全く異なる。
人の気持ちを動かすためには、事実には事実で対処するというような同じレベルで話をすることが効果ある。そして、解説や説明をし過ぎることは避けた方がよい。
先輩が後輩の相談に乗ってあげられなくなった、上司が部下と良好な関係を築きづらくなった…企業をサポートしていると、このような相談事が増えている。その原因を表現のスキルの観点から分解してみると、このようなとても単純なフレーズの繰り出し方の問題にあるように思えてならない。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第62回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。