「死にたい気持ち」は“恥”の感情。だからこそ、利用されてしまう

希死念慮に共感してくれるのは加害者だけだったという皮肉

 また、別の可能性も指摘する。 「それは人に対する期待感でしょう。人に傷つているけれど、気持ちを知らせることで、何かしら受け止めてくれる期待感があるのでしょう」(同)  事件では、白石容疑者が共感をしたふりをしながら、被害者たちに近づいた。自殺を否定せず、死ぬための方法を話すことができた。被害者にとっては信頼できる相手だった可能性がある。 「親身になって、しかも、頭ごなしに自殺願望を否定しなかったのが加害者だったのではないでしょうか。薬物依存症の人たちも、一番優しいのは売人だったと言っています。薬に手を出すときに、一番、理解をしてくれたと言うのです」(同)  児童買春の事件でも、最も話を聞いてくれたのは、事件の容疑者だったというのを聞くことがあるが、それと似ている。  そんな状況の中で、事件を繰り返さないためには何ができるのか。 「SNSの中で死にたいとつぶやている人を見つけるのは、出勤中に駅で倒れている人を見つけるのと同じかもしれない。そういうときにどうするのか?ということが我々に問われています」(同)  しかし、実際には何ができるのか。「死にたい」とつぶやいたら、人工知能(AI)を使って、DMで支援情報を流すことができないかというアイディアもある。  実際、Facebookは導入している。ただ、身近な人がSOSを発信した場合は、どうすべきか。リアクションをしすぎると、トラブルに巻き込まれる可能性がもあるが……。 「外から見ただけではわからない。例えば、子どもは秘密を持つものだし、親が知らないことで自責感を持つ必要はありません」  こうした関係は前提の上で何ができるのか。 「強く関わろうとすると逃げてしまいますが、“あなたを心配している”というメッセージを伝えて欲しいです。ただし、死にたい気持ちを否定すると、コミュニケーションが終わってしまいます」(同)  距離を取りながら、しかるべき援助機関につなげることがまず第一歩だろう。 <取材・文/渋井哲也> 【渋井哲也】 ジャーナリスト。「生きづらさ」のほか、インターネット・コミュニケーション、少年事件、ネット犯罪、自傷、自殺、援助交際などについて取材。講演活動も行う。近著に『命を救えなかった:釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(電子本ピコ第三書館販)。
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