そもそもインドネシア政府がアルコール販売を規制した背景にはイスラム教の影響と思われがちであるが、実は、建前上、規制理由は健康への配慮や氾濫する密造酒の取り締まりとなっている。禁酒政策を提言してきたイスラム教系団体が、世俗主義で禁酒へ腰が重い政府に対して、視点を変えて子どもをアルコール被害から守るためなどを理由に提言した結果、実現しているのだ。
ジャカルタの街中にある屋台はすべてアルコール販売規制対象
ただ、国民の大多数がイスラム教徒ではあるものの、インドネシア政府は建国時から政教分離の世俗主義をとっており、イスラム教はインドネシアの国教ではなく、憲法で宗教の自由が認められている。先日、ジャカルタで乗ったタクシーの運転手は別の仕事としてクラシックギターのプロ演奏者もしており、ときおりステージで語り弾きをしていると車内で「ビートルズ」の曲を歌っていた。聞くと彼は、プロテスタントで、洋酒が好きだという。
また、アルコールに寛容なヒンドゥー教徒が多く観光業が盛んなバリ島は、アルコール販売規制の見直しや特例エリア指定などもたびたび求められている。
しかし、それでもなお、バリ島でも一部緩和に留まっている。
こうなってくると大変なのは在留邦人だ。
外務省の海外在留邦人数調査統計によると、ジャカルタを含む在インドネシア大使館へ在留届を出している日本人は1万4957人(平成28年10月1日現在)、現地の日本人会に聞くと、ジャカルタだけを見ると3か月以上の長期滞在者約1万人、出張者を含めると約1万5000人ほどの日本人がジャカルタに滞在しており、その多くが駐在員とその家族で、ジャカルタは観光地ではないため旅行者は少ないそうだ。
インドネシア2大ビールブランドの1つビンタンビール(日本料理店で約1本600円)
自動車メーカーの駐在員でジャカルタ歴2年ビール党のKさんは、「今住んでいるマンションの下がスーパーになっているので休みの日にビールを買いだめしています。遅くなってスーパーが閉まったときはレストランからビールをテイクアウトしたりもします。インドネシアは、ビールの種類が少ないのが寂しいですが、飲めるだけマシだと思っています。あと欲を言えばジャカルタには生ビールがないのでたまに生が恋しくなりますね」と語る。
買うにしても、アルコール販売規制の影響でビールの価格はインフレ傾向なのも悩みのタネだ。ジャカルタ滞在歴10年近くになる日本人は、「10年前、コンビニで『ビンタンビール』の大瓶が150円くらいで買えたのですが、今は、ローカル食堂で400円くらい、日本料理店やバーだと600円、1000円は軽く超えます」と、懐を直撃する高騰に頭を抱える。
インドネシアのアルコール規制は、マレーシアなど周辺国へも影響を与えていると言われている。果たして、この流れは広がっていくのだろうか……。
<取材・文・写真/我妻伊都(Twitter ID:
@ito_wagatsuma)>