労災を認めない会社とどう戦う? 現役産業医が語る「ブラック企業」との戦い方<産業医に聞け!>

過去に関わった食品加工会社では…

 私が過去に関わった食品加工会社では、従来、労災申請を積極的にはしていませんでした。主体的に隠そうとしていたわけではなく、人手が足りずその業務がいつも後回しになってしまっていたのが実情でした。ところがあるとき、社員の一人がその件を労働基準監督署に訴え、視察がきて最終的に今後はきちんと報告する体制を取ることとなりました。  たまたま刃物などを使う手作業の多い業務が多い会社だったこともあり、絆創膏程度のケガは少なくはありませんでした。これもしっかり報告するようになった結果、数年後には、労災が多いとの理由で頻回に労働基準監督署が視察にくるハメになっていました……。  さて本題に戻ります。現時点での最良の対処法を3つお答えさせていただきます。 1.ケガの記録を保管する  1つめは、もっとも大切なことです。  記録を保管しましょう。ケガの記録(医者の診断書)、通院治療記録(詳細な保険点数を含む病院の領収書)、それ以外の診察関連費用(交通費や薬局での薬代、市販薬や絆創膏代など)はいずれも後で必要となるかもしれません。場合によっては、年末の医療費控除で使えるかもしれません。 2.労災申請の記録を残す  2つめは、労災申請に関する現状の記録です。  Bさんは労災申請を会社に希望したこと、しかし会社が断ることや対応してくれないことの記録を、メールなどのやりとりでもいいので、書面で残しましょう。 3.労働基準監督署に請求書を提出する  3つめ、自分で労働基準監督署に請求書を提出しましょう。  請求書の提出には、医師の他に会社が記入すべき欄があります。現状ではBさんは書いてもらえない可能性があります。その場合は、上記2つの記録を持って労働基準監督署に相談に行くといいと思います。その前に、労働基準監督署に相談しに行くことを会社にいえば、すぐに記入してくれる場合が多いと思います。

すでに払った治療費は返ってくる!?

 多くの場合、会社側が労災申請に積極的でない理由にならないものとして、“お金”があります。  労災の場合、治療にかかる費用は労働者災害補償保険によって支払われます。会社は平常時からこの保険に一定の保険料を払っています。なので、社員の労災のたびに費用がかかるわけではありません(労災申請が桁違いに多ければ翌年の保険料に影響する可能性は否定できませんが、そのようなケースを私は聞いたことがありません)。  また、メンタルヘルスなどの病気の場合、労災と認めることにより後々の民事訴訟において不利になる可能性をリスクとして会社が認識してしまうことも挙げられます。  会社はあなたの治療費などを渋るために労災申請に非協力的なのではないと思います。単に面倒だか、本部への忖度なのではないでしょうか。  Bさんがすでに健康保険で医療費を支払っている場合でも、労災保険への切り替えは可能です。ただし、切り替え手続きは煩雑かつ時間がかかる場合もありますので、なるべく早めに切り替えて続きを始めましょう。  しかし、今回のケガが、擦り傷や切り傷などのいわゆる時間が経てば治るものであればいいのですが、腰痛等で後遺症が残る可能性のあるものの場合、今後のさまざまな補償と関係してきますので、きちんと労災として扱いを現時点から受けていたほうが良いと思います。ご自分のケガの程度と合わせてお考えください。  以上、ご相談どうもありがとうございました。
武神健之氏

武神健之氏

 私の答えを元に色々考えることができるよう、あえて分かりやすく書いている部分もありますが、ご了承ください。読者の皆さまからも、産業医に相談したいこと、募集しています。相談事項がある方は、ハーバー・ビジネス・オンラインのお問い合わせフォームからお願いします。 <TEXT/武神健之> 【武神健之】 たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある
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