元自衛官・元米軍人らが北朝鮮への「武力行使」に警鐘

戦争PTSDは家族にも影響を及ぼす

 一般にPTSDは、本人はもとよりその周囲にも影響を及ぼす可能性がある。それは戦争におけるPTSDでも同様だ。会見に出席した米国VFP会員で「兵士のPTSD被害調査グループ」リーダーのサム・コールマン氏は次のように指摘した。 「PTSDは戦場だけでなく、本国への帰還後や退役後など、ずっと時間が経ってからも発症する。ベトナム戦争では帰還兵の3分の1がPTSDにかかっていて、本人だけでなく家族も多大な損害やストレスを被っている。しかしその支援は、個別に状況が異なるために難しい」  帰還米兵のPTSDの症状は、音やにおい、会話など、ささいなきっかけで戦場での過酷な体験がフラッシュバックするなどのケースが知られる。心身の失調などにより社会復帰も阻まれ、米国では1日に22人もの退役軍人が自殺しているとされる。  自衛官のPTSDが増えれば、そこに巻き込まれる家族も増えていく。井筒氏は次のように警鐘を鳴らす。 「任務から帰還した自衛官に向かって、家族が無意識に『南スーダンでは本当はどうだったの?』とか『敵が実弾を撃ったら反撃するの?』などと言葉を投げかける場面がこれから出てくる。その時に、言われた本人が気持ちを抑えられなくなり、『スイッチが入る』ことが現実に日本でも起こりうるし、米国社会で既に示されている。そういった現実に対して、私たちは自らの事として関心をもつべきだ」

知られていない「戦争のリテラシー」

VFP主催のデモでシカゴ市内を歩くVFPJメンバー(写真提供/VFPJ)

 発足してからまだ5か月余りのVFPJだが、北朝鮮による度重なるミサイル発射と米朝間での挑発の応酬、そして10月22日の衆院選と、早くも国内外の大きな変化に直面している。 「8月に米国シカゴで行われたVFPの年次総会に、VFPJも参加しました。北朝鮮と米国との緊張が高まっていますが、VFPのメンバーは口を揃えて『圧力ではなく対話が必要だ』と話していました。『戦争のプロ』だった米国の元軍人がそう言っているのです」  VFPJ事務局長で弁護士の武井由起子氏はこう話す。 「私たちの訪米と同じタイミングで、小野寺五典防衛大臣が『北朝鮮がグアムにミサイルを発射すれば、集団的自衛権に従い迎撃は可能』と発言したので、私たちはそれも踏まえて朝鮮半島危機について総会で報告しました。VFPは『爆撃ではなく外交を』とする緊急声明を発表し、その和訳がフェイスブックで多くシェアされています。  北朝鮮の核保有は、朝鮮戦争時に米国が核攻撃を示唆したことに根があるわけです。しかも北朝鮮はイラク戦争でフセイン政権の末路を見ている。その論理に沿えば『核を持たなければ米国に抵抗できない』となります。  一方で北朝鮮は核保有と並行して、米国に平和条約の締結に向けた交渉を求めている。ここで両国の挑発の応酬をきっかけに武力衝突が起きれば、第3次世界大戦の引き金にもなりかねません。VFPとVFPJは、北朝鮮との交渉のテーブルにつくよう米国に呼びかけています」  北朝鮮の核保有を前提に、実際に朝鮮半島で戦闘が始まれば、日本など周辺国を含めて100万人単位での犠牲者が出る可能性がある、との予測もある(http://www.38north.org/2017/10/mzagurek100417/)。こうした最悪の事態は回避しなければならない。 「衆院選を経て引き続き与党が政権を担いますが、戦争が社会にどんな影響をもたらすのかについてのリテラシーが、これまで日本ではあまり共有されてこなかった。元軍人の知見を社会に伝えることが、平和への道筋につながると考えています」(武井氏) <取材・文・撮影/斉藤円華>
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