近年、韓国の大手銀行も人工知能搭載の音声サービスに力を入れている。
人員スタッフでは対応できない24時間体制に加え、身分証名書類がなくとも、音声認証によって本人確認も可能。「簡単で早い」というのは、企業だけでなく、顧客側にもメリットがある。
音声認証によって本人確認がとれたあとには、人工知能との会話だけで銀行の基本サービスはもちろん、銀行口座やクレジットカードの使用内訳などを分析し、金融資産の現況、所得・支出の変化などの情報も提供する見通しなのだとか。
米銀シティグループの最高経営責任者(CEO)を務めていたビクラム・パンディット氏も9月に行われたブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「人工知能やロボット技術によって銀行業界での雇用の30%が、今後5年以内に消える可能性がある」と語っている。
「人工知能に職を奪われる」という懸念は今に始まったことではない。しかし、ここで注意すべきなのは、冒頭のとおり日本も例外ではないということだ。
三菱UFJフィナンシャルグループの平野信行社長は今年9月、国内の事務作業の自動化やデジタル化によって「9500人相当の労働量の削減を実現したい」と明らかにした。この人数は三菱東京UFJ銀行の国内従業員の約30%に相当する規模だという。
平野社長は「一部の部署だけでなく、組織全体としてデジタル技術による経営改革に取り組み、既存業務を大幅に効率化する必要がある」と指摘。業務のデジタル化によって、今後7年間で2000億円の利益押し上げ効果を目指している。
また、みずほフィナンシャルグループも今後10年にわたって、全従業員の3分の1に該当する約一万9000人を減らす検討段階に入ったと発表。同時に、AIやロボットなどITを活用した新たな金融サービス’「フィンテック」を展開しながら業務を効率化する方針を打ち出した。全国にわたって約800カ所の店舗に対して、統廃合を検討しており、新規採用も抑える見通し。人員を徐々に削減し、グループ職員数を現在の約6万人から4万人規模へと減らす予定だという。
同じように、三井住友フィナンシャルグループでも生産性向上や業務の効率化を通じて、2020年度までに4000人分の業務量を減らすと明らかにした。
大手銀行がそろって大々的な構造の見直しに着手したのは、日銀のマイナス金利政策が長期化し、銀行の実績が急速に悪化しているためだ。日本銀行の政策金利は昨年1月-0.1%へ引き下げられてから、今まで維持されており、融資による利ざやでは収益を上げることができない状況が続いている。
結果的に既存の構造の全面的な見直しと人員削減をはじめとする「コスト削減」は不可欠な選択肢となった。
現状況では、各社ともに解雇・削減措置を直ちに実施せず、配置異動などによって業務量を減らしていく方針だ。しかし、AIとロボット旋風はとめどなく加速し、進化し続ける。
金融業界だけではなく、職種を問わず、人工知能に仕事を取られる未来が押し寄せている。
<文・安達 夕
@yuu_adachi>