しかし、カタルーニャが共和国として独立宣言をしても何度も報じているように厳しい現実が待っている。
カタルーニャの独立宣言について、「それは妄想でしかない」と指摘したのは、スペインが民主化になる以前から現在までの政治の歩みを熟知している著名ジャーナリストのフェルナンド・オネガである。同氏はカタルーニャの代表紙『
La Vanguardia』への寄稿の中で、「750億ユーロ(9兆7500億円)の負債を抱え、州の公務員への給与も支払うことが出来ない」、「自治州の融通資金もない」、「国連にもEUにも加盟出来ない」、「ジュンケラス副州知事が期待した共和国の柱に成る銀行も欧州中央銀行からの支えもなく(州外に去った)」、「これが(共和国になった)翌日に置かれる状況である」と独立派への厳しい評価を下している。
同氏は、155条の発動を避けるために何ができるかということについて、「スペイン政府の合法的自治を受け入れて、州議会選挙を実施することである」としている。
州議会選挙を実施することを決める権利は州知事がもっている。一つ憶測されているのは、155条の上院での可決を待っている間に、プッチェモン州知事は州議会を解散して総選挙に打って出ることは可能である。その場合は155条の上院での可決を中断することになる。スペイン政府も内心は155条を発動した後、2か月以内の州議会選挙を実施するというプランは持っていると言われている。
それまではスペイン政府から州政府の各省に代表を派遣し、自治機能を復活させるものと憶測されている。その場合に独立支持派の官僚らの反抗を受ける可能性もある。
しかし、プッチェモン州知事を支えて来た連立政権の内部でも、住民投票をして独立の為に必要な支持票を得た後に、また選挙をする意義はないと主張している議員や、政府との対立はもうこれ以上続けたくないという議員もいるという。プッチェモンは元ジャーナリストで生粋の政治家ではなく、指導力にも欠けるとされている。
カタルーニャ市民社会の調査によると、カタルーニャ州のGDPは長引いている独立騒動で<4%失った>という報告をしている。(参照:「
La Gaceta」)
相次ぐカタルーニャ企業の州外への本社移転も止まるところを知らない。スペインを代表する自動車メーカーセアット(SEAT)が、親会社フォルクスワーゲンからいつでも州外に本社の移転を許可するという承認を貰ったというニュースが19日の紙面でも報じられた。セアットはフランコの独裁時代に国営企業としてイタリアのフィアットの技術支援を受けて国営企業の一貫として誕生した自動車メーカーである。その後、単独で経営していたが、フォルクスワーゲンに買収された。しかし、今もセアットはスペイン人の間で愛着を持たれている企業である。(参照:「
El Mundo」)
カタルーニャの将来の行方の見定めが出来るようになるのはまだ可成り先になるであろう。1992年のバルセロナオリンピック以後、スペインを代表する都市として成長し、「バルセロナ」は世界を代表する都市の一つとなった。この25年間の発展させた努力が無謀な独立への動きで今、水の泡となろうとしているかもしれない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。