住民投票が行われてからの2大銀行の決断は早かった。
サバデル銀行の移転決定までの流れはこうだ。
10月1日 住民投票実施。
10月2日 州政府は独立票が投票率の90%を獲得したとして勝利宣言(有権者数から見ればそれは38%の支持率だったがそれは無視)。バンカイシャとサバデル銀行の株価の下落は続いた。
10月3日 州政府が音頭を取ってゼネストを実施。
10月4日 国王フェリペ6世がスペイン憲法を尊重すべきだという声明を発表。
10月5日 サバデル銀行が登記上の本店をバレンシア州のアリカンテ市に移転を決定。
サバデル銀行は9月半ば頃からカタルーニャ州の支店で資金の流出を観察していた。そして、それが次第に頻度を増していたのも把握していたのだ。他の銀行でも同様の動きがあるという情報も入手し、臨時の取締役会を開き、本店をバレンシア州のアリカンテ市に移すことを決めたという。移転先はアリカンテ市で2012年に吸収合併したCAM銀行の本店があった所である。
カイシャバンクのファイネ前頭取も本社の移転を決めていた。彼はフェリペ国王そしてラホイ首相と電話会談。ラホイ首相には本社移転に株主総会の合意なく、取締役会の合意だけで移転できることができるように法改正を要望した。バンカイシャの会社法では移転には株主総会での合意が必要になっていた。しかし、それを待っていては同社の株価の更なる下落も防げなくなるからだ。
カイシャバンクの流れはこうだ。
10月6日 ファイネ前頭取の要請をラホイ首相は閣僚会議にかけて、法改正を決めた。
10月7日 カイシャバンクは本店をバレンシア市で2013年に吸収合併したバレンシア銀行の本店だった歴史ある建物の社屋を本店とした。
2大銀行の移転を思い留まらせようと州政府のジュンケラス副州知事が両者と個別に会談をもって説得に努めたが成果はなかった。独立すれば、カタルーニャはEU圏外に置かれるようになる。そのような独立国の銀行としての発展性はまったくないのだから、銀行の判断も仕方あるまい。
この2大銀行の移転に伴い、バンカイシャのグループ企業も揃って本社をマドリードやパルマ・デ・マヨルカに移転させた。2大銀行の後を追うように、取締役会で移転の合意を決めたカタルーニャを代表する大手企業が続々と毎日にように本社の移転を発表して行ったのである。
ファイナンス関係の専門家の意見によると、独立しようとする否定的な影響が消え去るのに数年は待たねばならないとしている。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。