ひと世代前までは、結婚はライフガードであったが……
科学の世界では、昔から「結婚は健康にいい」という考え方が常識だったのをご存じでしょうか? 独身のまま中年期を過ごす者よりも、特定の伴侶を見つけた者のほうが、健康的な体を保っていることが多い、というのです。
これは大量の観察研究から得られた結論で、たとえば有名なのは、2014年にカリフォルニア大学から出たメタ分析でしょう。過去50年のあいだに行われた調査から72,000人分のデータを精査したもので、果たして結婚がどれだけ健康にいいのかを定量的にまとめています。
その結果は予想を超えるものでした。全体的に既婚者ほど寿命が長かったのはもちろん、
・心疾患になりにくい
・脳卒中リスクが下がる
・鬱病の発症率が低い
などの特徴まで確認されたのです。もちろんこれは観察研究なので因果関係まではわかりませんが、おおよそのデータは「結婚=健康」の相関を示しており、特定のパートナーがいる人ほど病気にかかりにくく、メンタルも健やかな傾向があるのは間違いないでしょう。
しかし、言われてみれば当然の結果なのかもしれません。結婚をすれば家に帰っても話し相手がいるため孤独に悩むことはなく、ひとり暮らしより食事にも気を使うはず。そのぶんだけ既婚者の健康レベルが上っても不思議ではない気もしてきます。
が、本当にそうなのでしょうか? そこまで結婚がいいものなら、なぜここ数年の先進国では離婚率が5割を超える高い数値を維持しているのでしょうか?
実は従来の研究には、ひとつだけ大きな問題が存在します。世代ごとの価値観の変化が反映されていないのです。
当然ながら社会の倫理や価値観は時代によって大きく変わり、この違いが世代間の対立を生むこともしばしば。結婚に対する考え方も今と昔では大きく違うため、その差が旧来のメリットを打ち消す可能性も大いに考えられるはずです。
2017年、オハイオ州立大学の研究者が、世代の差を考慮した調査を行いました。1955〜1984年のあいだに生まれた既婚者12,373人を対象に、全員の健康レベルにどのような違いがあるかをチェックしたのです。
そこでわかったのは、以下のような事実でした。
・古い世代ほど結婚によって健康レベルは上昇する
・近年に生まれた世代ほど結婚しても健康にはなりにくい
どうやら、古い世代の人間は伴侶を見つければ健康になれるのに、若い世代になればなるほど、なぜか結婚のメリットを得られないようなです。なんとも不思議な現象ですね。
このようなな違いが出た理由はハッキリしていませんが、オハイオ州立大学の研究者は次のように指摘しています。
「結婚による健康メリットが低下したのは、人口動態と文化の傾向が変わったのが原因だろう」