微表情が生じる頻度や微表情の強さは、感情が抑制しやすい状況か否かによって左右されます。
感情を抑制するのが容易なら微表情は生じませんし、それが困難なら微表情は生じます。ウソをついた人物がそのウソにさほど罪悪感を抱いていないければ、その罪悪感は簡単に抑制出来てしまうので、罪悪感の微表情は生じないでしょう。
また、もしその人物が微塵も罪悪感を抱いていなければ、そもそも抑制される感情がないために微表情は生じません。一方で、その人物がウソに大きな罪悪感を抱いていれば、その罪悪感を抑制するのが困難になり、微表情として生じるでしょう。
さらに、ウソつきが罪悪感を抱いていなくとも、証拠を提示されればそれに動揺して微表情が生じるでしょう。その証拠を見越して辻褄の合う回答を用意していれば、罪悪感も動揺もないので微表情は生じないでしょう。
このように微表情が生じやすいか否かは、個人の感情の抱き方や微表情が生じる状況、つまり感情が抑制される状況であるか否かを考えることが重要なのです。
私は、表情分析という特殊性から「すぐに人の心が読めてしまって大変ではないですか?」と冗談半分・本気半分でよく質問されます。
「そんなにあなたは本心を隠して生きているのですか?」とこれまた冗談半分・本気半分でよく返答します。
日常やビジネスの一コマで微表情が生じるほどの事態があれば、それは強い感情を抑制している瞬間であり、緊急事態です。その緊急事態がどれくらい生じるかは、個々人の感情への向き合い方や個人を取り囲む職種・職務環境によって異なります。
微表情が生じるか否か、という目の前で見える現象の後ろに本当に見つめるべきものがあるのです。
(参考文献)
Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514.
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。術』飛鳥新社がある。