広告売り上げのユーザー還元を謳うアメリカ発の新SNS「Tsu」が、いまいちスルーされている理由

 FacebookやTwitterなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)はもはや日常生活のインフラとして欠かせないものになりつつある。現在は先述した2つが業界をリードしているが、そこに割って入ろうとする企業もまだ少なくない。  米新興企業 Unlock Tsuが10月21日(現地時間)にローンチした新SNS「Tsu(スー)」https://www.tsu.co/)も、そんなSNSの一つだ。 tsu 中身はFacebookなどとさほど変わらない、スタンダードなSNSなのだが、ここのウリはなんと「広告収入をユーザーと分け合う」という点。Facebookのフィードに表示される広告は、その広告で発生した売り上げがあってもFacebook社が持っていくだけだが、Tsuの場合はユーザー側に「9割」が還元されると謳っている。  ユーザーが投稿したコンテンツで儲けるFacebookに反感を覚える人にはなかなか魅力的なシステムに見え、日本でもいくつかのメディアで紹介されたが、どうもおかしい。  今まで、FacebookやTwitterなどが登場した際に、いち早くそうしたサービスに手を付けていた、いわゆる「アーリーアダプター」層がまるで動いている気配がないのだ。  過去に、FacebookやTwitterなどもいち早く参加してきたWebデザイナーのA氏は語る。 「いや、実を言うと全然知りませんでした。周りにやっている人がいないんだもの、知りようがない」  一方、このTsu、こうしたネットリテラシーが高くてWebのトレンドに敏感そうなアーリーアダプター層ではない、別のある層には認知度がグングン上昇中だ。  それは、アフィリエイターや情報商材に関連する人々だ。あの与沢翼氏も注目していると話題になっているほど。  なぜこのTsuは、アフィリエイターや情報商材関係者にばかりウケているのだろうか?   この点について、ITライターの久保内信行氏はこう語る。 「このTsu、『広告によって発生した売り上げの9割をユーザーサイドに還元』というのが売りなんですが、これがアカウント保持者個人だけに還元というわけじゃないのがミソなんです。Tsuは完全招待制を取っていて、自分が招待したユーザーは子、子が招待したユーザーが孫、孫が招待したユーザーはひ孫……と『Family Tree』というネットワークで9割の取り分を分配することになるんです。例えばひ孫のコンテンツで売り上げが発生したとします。その売り上げの9割をFamily Treeで分配することになる。、ひ孫は自分のコンテンツなので50%を、孫は33.1%、子はさらにさらにその3分の1である11.1%、そして親はその3分の1である3.7%の分配となる。すなわち、自分が招待した子がどんどん子を増やせば自分のところで収入がなくても吸い上げられる。孫やひ孫から会費を取るのではなくテラ銭を受け取る仕組みは目新しいが、早い話MLM(マルチレベルマーケティング)や、もっと率直に言えばねずみ講みたいな内部システムなんです。こういうところにアフィリエイターが食いついたんでしょう」  そのため、いまはTsuで検索するとGoogleの検索結果の一番上にある広告枠には、公式サイトの日本語版のような見た目で自身の「子」として誘導できる招待リンクが表示されているし、始め方ややり方をまとめたサイトもほとんどがそこに招待リンクを仕込んだものばかりという有り様になっている(※ちなみに、本記事冒頭に挙げたURLは招待リンクではありません)。  ただ、極めて胡散臭いシステムではあるが、一応日本の国内法では適法であると語るのは弁護士の高崎俊氏。 「参加者の誰も金品を支払うのではないので無限連鎖講防止法(ネズミ講防止法)に当てはまらないし、販売関係にはないので連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引を規制する特定商取引法にも当てはまらないですね。法的には問題なさそうです。誰かのお金を搾取する訳ではないので、法的問題にもなりにくいですかね」  あくまでも投稿されたコンテンツで得られた広告収入の配分をTsuが決めているだけだから、システムについていえば特に法的な問題点はないようだ。  しかし、それではなぜ敏感なアーリーアダプターが食いつかないのか? 「まずやっぱり”マルチ臭い”ことでみんな判断の保留をしているんでしょう。あとは、アーリーアダプターはリテラシーだけじゃなくてプライドも高いから、招待されたら『なんだこいつ、俺を子にしてカネを吸い上げるつもりかよ? オレのこと情弱だと思ってんのか?』ってなるんじゃないでしょうか(笑)」(前出のA氏)  さらに言えば、規約なども極めて曖昧なのも胡散臭さを後押ししている。例えば、仮に高額の報酬を得られるようになった場合を考えてみよう。一般的にアメリカでは年間600ドル以上の収入があった場合、納税の申告をしなくてはいけない。Tsuでは、600ドル以上の報酬が発生した場合はソーシャルセキュリティナンバー(社会保障番号=以下SSN)を運営者に伝えるべしと書かれているだけだ。米国民であればこれでいいだろう。しかし、SSNは”米国籍の方及び米国の永住権を持つ方(グリーンカード保持者)、米国籍以外の方で米国内で働く許可を得た方、あるいは米国連邦年金受給のために社会保障番号が必要な方のみ”が取得できるのである(米大使館サイトより)。これでは、SSNを取得できないユーザーへの支払いはどうするつもりなのだろうか? 通常であれば、非米国納税者には米国課税報告制度から免除する書類の提出などが規定されるているものだが、それもない。このような杜撰な規定は在米のアフィリエイトシステムを取っているまともな企業ではありえないことだ。  とはいえ、そもそも、「報酬が600ドルを超えたらどうしよう……」などという心配も杞憂に終わるかもしれない。なにしろ、あれだけ世界中を席巻しているFacebookでさえ、2012年に発表した資料によれば、2011年の一人あたりの広告売り上げの全世界平均値は4.34ドルにしかならないのだ。この9割の3分の1の3分の1の3分の1……なのである。子や孫、ひ孫を多数抱えられればそれなりの金額にはなるかもしれないが、無名のアカウントでちゃんと機能する有効なアカウントをそれだけ下に付けられる人はどれだけいるのか。さらに言えば、それだけ有効なアカウントを下に付けられる人なら、恐らく他のメディアで発信してコンテンツで儲けるなりしたほうがまだ効率良さそうな気もする。  まあそれでも「早く始めたほうがいい」という人は始めるのもまた一興かも知れないが、日本での状況は先述したようにネットで面白いコンテンツを提供してくれるような層というよりは、一攫千金に熱心なアフィリエイターなどが集まっているそうなので、現在中に投稿されているコンテンツも推して知るべしと言ったところだろう。 <取材・文/HBO取材班>
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