漫画家・国友やすゆき「編集者に『だから大卒の漫画家は使えねえんだ』と吐き捨てられたこともある」【あのサラリーマン漫画をもう一度】
――サラリーマンって、人口的にはマジョリティなのに、サラリーマンを主人公にした漫画ってすごく少ないんですよ。
国友:意外と描けないらしいの。昔、まだ少年漫画を描いていたころに、ある出版社の編集者に「だから大卒の漫画家は使えねえんだ」と吐き捨てるように言われたことがあってね。当時は大卒の漫画家ってあんまりいなかったの。でも、大人漫画が増えて、サラリーマンが主人公の漫画を描くとなると、ある種の素養と、政治経済的なものに対する関心がないと描けないじゃないですか。少年誌の人たちって、そういうのがむしろ嫌いだから漫画家になるんだと思う。だからポジションが空いてたんです。描いてみたら、弘兼大先生と、『男一匹』を変換した本宮先生くらいで、意外と競合がいないんだなと。出てこない。
――ブルーオーシャンですよね。
国友:他にいないから、たとえば「M&Aを舞台に描いてほしい」とか、そういうオファーが来る。
――『社買い人 岬悟』ですね。あの作品は、描くにあたって取材とかしたんですか?
国友:取材はほとんどしないんですよ。面倒くさがり屋なので、ひたすらネットで調べる。ただ、企業買収とか興味はあるから、調べることは嫌じゃなかった。でも理解はできなかったけど(笑)
――あの作品も「リアルだな」と思いながら読みました。
国友:調べたことをベースに、一応それっぽく。でも僕が描くと、話は男と女がメインになる。M&Aは背景としてあって、突っ込んでいかない。しかも読者も僕にそれを求めていない(笑)。ハリウッドの映画のパターンもそうなんだよ。企業買収の話であっても、冷静に見ると主人公の確執とかが中心に描かれていて、企業買収は背景でしかない。でも後から見ると、それを描いているように見える。そうするとエンターテイメントとして成立する。企業の話を真面目に描いていると、セリフも膨大になって、地味なおっさんの会話ばっかりになっちゃうんですよ。
――『ジャンクボーイ』から『幸せの時間』に至るまで、漫画の中で不動産会社が必ず出てきて、国土グループとか堤清二とかがモチーフになることが多いのが興味深いんですが、大学で専攻したりしていたんですか?
国友:いや、まったく関係ないんだけど、社会の出来事、経済的な物事に対する関心は常にあるんですよ。だから「お前、サラリーマンをやってもなんとかなったんじゃないの?」とよく言われるんですけど。お話を大きくしようとすると、不動産会社って必ず絡んでくるんですよ。経済を描こうとすると、不動産的なものとか株とかって、絶対必要なんだよね。特に「黒幕が」っていう話になると、どうしてもそっちになるし(笑)。しかも西武はいろいろあったじゃないですか、家族の確執とか。あれを題材にかわぐちかいじ先生が漫画を描いてますけどね。『ライオン』だったかな。そういうのが大好きだったの。
――なるほど、そういうことだったんですね。
国友:『幸せの時間』は、欠陥住宅が社会問題化して騒がれた時代だったので、これ使おうぜ、という話になって。主人公のサラリーマンが、不動産会社の中でのし上がっていくために、悪いことを始めちゃうのね。それで欠陥住宅を作り、出入り業者を締め上げて裏金をもらい、自殺まで追い込んで。最後はバレて、にっちもさっちもいかなくなる。だからエロを切り離せば、そっち側の話があるんですよ。その軸がないと、ドロドロした色恋沙汰だけだと、持たなくなっちゃう。愛憎劇って、同じことを繰り返すだけになっちゃうなので。
――サラリーマンドラマとエロの2軸なんですね。
国友:僕の漫画って大体そうなってる。縦軸があって横軸があって、話を進める。
――結局『ジャンクボーイ』から『幸せの時間』シリーズ、そして現在に至るまで、連載が途切れたことってないですよね。
国友:ないね。ずーっと描いてる。仕事がなくて休んだこともない。僕は、爆発的ヒットはないんだけど、そこそこのヒットが繋がってて、連載が途切れたことがない。
――そうなると、『ジャンクボーイ』以前の漫画を読んでみたくなるんですけど、復刻させる計画とかないんですか?
国友:以前、そこそこ出したことあるんですよ。コミックスにすると、カバーだけは新しく描くじゃないですか。でも僕、絵柄を江口寿史調に思いっきり変えてブレイクしたので、表紙はそんな感じでかわいい絵なのに、買って開けてみると絵が全然違う劇画調、っていうことになるんです(笑)。
――買った人たちはビックリしたでしょうね。
国友:浦沢直樹君が当時、僕のその漫画を買ったんですって。僕の過去形のやつを。そしたら「これ詐欺だよ!」って言って怒ったらしい(笑)。だから昔の作品はいまや黒歴史として海の底に沈めてる。これはもう晒せない。そういうのは封印して、それ以降は真面目に描いてるんですけどね。僕の漫画歴史は35歳くらいから始まったことにしといてください(笑)。
サラリーマンとエロの2軸
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2017.09.23
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