こうしたポリシーの差も踏まえた上で、スペインのファッション業界はどのように反応しているのだろうか?
ファションビジネスのデジタル情報紙として評判の高い『modaes.es』が、スペインのファッション業界の人に「スペインでユニクロは何店構えることができるのか?」という質問をしている。
同紙が業界の企業役員や専門家に尋ねたところ、<最低10店舗構えることが出来ればスペインへの進出はそれなりに評価される>としている。<10店舗を同時に開店できるだろうか?><しかし、最大15店舗となるとユニクロでは難しいだろう>という回答だ。
ユニクロのコンセプトはスペインでは商業的にマッチしないとして<50店舗を構えるまでには至らない>と同紙は言及している。また、ユニクロが今回店舗を開設したパセオ・デ・グラシア通りにある<ZARAの店には年間で700万―1000万人の消費者の訪問があるが、ユニクロには400万―500万の訪問が見込まれる程度だ>と予測もしている。(参照:「
modaes.es」)
イタリアのBrandsdistributionの創業者のひとりカルロ・タフリは<「ユニクロがZARAのように大きく成長することは難しい。何故ならユニクロのビジネススタイルはZARAのそれとは違うからだ」>と述べ、<「ユニクロは寧ろ新しいBenettonだ」>と指摘している。(参照:「
El Mundo」)
ユニクロの“シンプルで着易く機能性がある”というコンセプトだけではスペインを始めヨーロッパ市場での発展は大きくは望めないであろうというのがスペインファッション業界の概ねの見方である。
つまり、成功するためには、より高いファッション性が必要なのである。
ユニクロは、現在までにヨーロッパで英国、フランス、ドイツ、ベルギーの4か国36店舗を構えている。しかし、流行に非常に敏感に反応するスペインやイタリアでは着易さよりも着にくくても流行のファッションを追うという傾向にあるのが消費者なのである。しかも、価格もより安いほうに消費者は向かっている。
アイルランド生まれのPRIMARKが、ユニクロと同様に基本服をベースにしているにも関わらずスペインでも急成長しているのは正に価格の安さに要因がある。ZARAよりも安いということで、ZARAは対PRIMARKのために更に価格帯を下げた別ブランドLEFTIESを設けたほどだ。
このような観点からも、ユニクロは価格の安さよりも品質の高さを重視するままでは、ヨーロッパで急激に成長することは難しいと思われる。
既にバルセロナでは2号店の場所は確保している。ショッピングセンターGlories de Barcelonaの中に出店が予定されているという。業界ではこの場所は一般の観光ルートと人通りの多さから外れており、この場所の選択が疑問視されているという。
マドリードの1号店も、同じくショッピングセンターでEl Jardin de Serranoに2020年にオープンする予定だとしている。高級ショップが並ぶセラノ通りの近くで、場所としては適切だと思われる。
ただ、こうした出店計画を見ても、ユニクロの決定はZARAなどヨーロッパ企業に比べ非常に遅い。慎重さとミスをしたくないということから決定が遅くなるのであろうが、2020年までマドリードでユニクロの店がないというのはユニクロのスペインでの伸展には遅すぎるという見方もある。
日本を代表するブランドとなったユニクロ。スペインでの今後を見守っていきたい。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。