イスラエル建国以来初となる現役首相の南米訪問、その理由と背景

白石和幸

ネタニヤフ首相の南米訪問を報じるHispanTV

 ネタニヤフ首相がラテンアメリカへの訪問を9月11日から開始した。イスラエルの現役首相がラテンアメリカを訪問するのはイスラエル建国以来初めてである。訪問先はアルゼンチン、コロンビア、メキシコの3か国。この3か国はイスラエルにとってそれぞれ重要な国である。

 メキシコはラテンアメリカの中でイスラエルと最大の取引国、コロンビアはイスラエルと軍事関係で深い関係にある、アルゼンチンはラテンアメリカでユダヤ人がもっとも多く住んでいる国である。

 メキシコとコロンビアは太平洋同盟を形成し、アルゼンチンはメルコスルでブラジルと並んでリーダー国であるということから、今回の訪問目的は貿易取引の拡大を図ることが主目的なのは当然だ。が、もう一つ、ネタニヤフ首相には狙いがある。それは、パレスチナ問題に絡んでパレスチナを国連で支持する国が増えていることへの抑制と、ラテンアメリカで次第に影響力を高めているイランを牽制するためである。

 ネタニヤフ首相は、特に世界各地で起きているテロリズムの原動力になっているのは2つあるとしている。<イスラム国とイラン>であるという。(参照:「Infobae」)

現役首相の南米訪問が「建国以来初めて」だった背景

 今回の訪問を決めるのを容易にした一つの切っ掛けがある。アルゼンチンに欧米寄りの外交を展開するマクリ大統領が登場したことである。

 先述したが、アルゼンチンはラテンアメリカの中でユダヤ人が最も多く在住している国で、その数は<18万1000人>。<その次がメキシコの4万人>である。(参照:「El Pais」)

 ところが、これまでキルチネル大統領夫婦による12年間の政権で、イスラエルはアルゼンチンへの訪問が出来ない状態が続いていた。理由はこの夫婦の政権下ではイランとの関係が進展していたからである。

 特に、クリスチーナ・フェルナンデス・キルチネル大統領の政権下では、イランとの外交関係が如何に親密なものであったかを示す特筆すべき事件が起きた。

 1992年3月17日にブエノスアイレスのイスラエル大使館が何者かによって爆破され22人が死亡、242人が負傷するというテロ事件が起きたのである。2年後の1994年7月18日にはユダヤ人共済協会(AMIA)ビルが爆破され85人が死亡、300人が負傷するという同じくテロ事件が発生したのである。(参照:「Telam」、「CNN」)

 アルゼンチン政府はこの二つのテロ事件の解明を進めていたが、イスラエルの諜報機関モサドはヒブボラの仕業であるという結論に至っていた。ヒズボラの背後には必ずイランがいる。

 一方、アルゼンチン政府はこのテロ事件の主犯者の一人はアフマド・ヴァヒディであるという結論に達していたという。その彼が2009年にイランの国防大臣に任命された時はクリスチーナ・フェルナンデス・キルチネル大統領はその任命を痛烈に批判した。

 ところが、そのあとクリスチーナ・キルチネル大統領の姿勢が180度方向転換したのである。何故? アルゼンチンの法廷にアフマド・ヴァヒディが召喚されることを恐れたイランのアフマディーネジャード大統領政権下のイラン政府がアルゼンチン政府に今後のこの事件の解明を続けないように依頼したのである。その交換として<イランは年間12億ドル(1320億円)相当の取引>を約束して両者の間で密約が交わされたのである。(参照:「Perfil」)

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マクリ大統領誕生で変わった

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