マラソンマニア・タカ大丸の珍道中 ”ジャマイカ代表”・猫ひろしの号砲で始まった加計呂麻島レース
前回の最後に触れた通り、まだ夜明け前の加計呂麻の星空に心奪われてしまった私だが、準備を着々と進めていく。普段はとらない朝食をとり、マラソン用のTシャツと短パンを履く。朝食は前々日に奄美側で買っておいた沖縄風オニポー(サンドイッチ状におにぎりで具をはさんだもの)である。
たしか、7:03に近くのバス停にバスが来るはずであった。もう少し遅くいきたいところだが、足がないのだからどうしようもない。
しかし、ここで私は痛恨のミスを犯すことになる。7時ちょうどに家を出てバス停に行ったのだが、待てども暮らせどもバスの影すら見えない。もしや少し遅れているのではないかと思い、15分ほど待ったがバスは来なかった。考えられる可能性は一つしかない。もうバスは行ってしまったのだ。
今さらバスが予定時刻より先に行ってしまったのか、私の時計が狂っていたのかを論じても意味はない。とにかく、私はバスで会場まで行けなくなってしまったのだ。
ここで離島ならではの問題がある。別に東京でなくとも、ここがちょっとした都市であれば「タクシー」というものが存在する。しかしここは加計呂麻だ。そもそも、タクシーそのものが存在しないのだ。あるのは、緊急のときに加計呂麻と奄美をつなぐ「海上タクシー」だけだ。だがこの際海上タクシーは関係ない。
朝7時半になった。もはやバスを待っていても来ることはない。かといって、レース開始前に会場まで走って行って足を疲れさせるなどもってのほかだ。こうなったら、方法は一つしかない。ヒッチハイクだ。
かつて私はとある番組に出演し、全国ネットでデカデカと「見た目が怪しすぎる通訳」とテロップを打たれてしまったことがある。だがそんなことは構っていられない。だいいち、この日が何かを考え、格好を見ればだれがどう見てもマラソン大会出場者に決まっていて、強盗でないことはわかるはずだ。私は腹を括って右親指を立てた。
……が、ここは離島である。そもそも車が滅多に通らない。だから親指を立てても意味はない。考えてみれば、私がこのバス停に到着してから約30分で車は二台しか通り過ぎなかった。とすれば、次の一台を逃せばまた15分から20分、ひょっとしたら一時間待ちぼうけになるかもしれない。
そんなことを考えながら立っていると10分ほどで、軽トラックが近づいてきた。走行方向から見て、スタート地点につながるトンネルに入ることは間違いない。私が親指を立てると止まってくれた。対馬に行った時の経験からして、孤島になればなるほどヒッチハイクに応じてもらえる可能性は高い。こういう場所で足がなければどうなるか誰でもわかるからだろう。
結局私は無事スタート地点に到着することができた。
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2017.09.17
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