しかし大統領が変わり、政権が変わった今、韓国国民は韓国の暗い過去に光を当てる、そんな映画に熱狂している。
2013年に公開された「弁護人」は2003年に韓国第16代大統領に就任した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が政治家になるまでの半生を描いた映画で、弁護士として活動する盧元大統領が冤罪被害者を救うために、国家権力に立ち向かう物語だ。人権派として活動した彼の人気は国民の間でいまなお根強い。ちなみに上映後、観客動員数は1100万人の大ヒット。
また、今年上映された映画「タクシー運転手」は上映開始39日目にして観客動員数1200万人を突破。今年1000万人を動員した映画は他になく、単独トップを独走している。
この映画は1980年に光州(クァンジュ)市で起きた民主化デモ(光州事件) を題材に扱った作品。このデモは当時の政権によって暴力的に鎮圧された。結果的に1600人以上の負傷者を出し、150人を超える一般市民が犠牲となった。30年以上経った現在では、反独裁民主化運動の象徴とされている。
さて、今年の3月に大統領罷免を受けて以来、ソウル拘置所で収監生活を送っている朴元大統領。今月7日に報じられた韓国日報によると、朴元大統領は自身の弁護人を除いては今まで誰とも面会を行わなかったことが明らかにされた。収監されてまもなく朴槿惠派とも言われる近い関係者が面会を申請したが拒否された。
拘置所医師に「1週間に4度も出廷したため、激しい疲労感に襲われている」と相談したそうだが、健康状態はまったくの異常なし。7月末には巻き爪による足の痛みを訴え受診。その際にはMRIなどの精密検査を受けたとも報じられている。
先月30日には腰痛の治療のためにまた病院へ。その際、拘置所から病院へ訪れる様子をメディアにキャッチされている。
目まで覆うほどに大きなマスクをしながら車椅子に乗り、やせ細ったように見える。診察の結果、腰痛の原因は老化によるもので、こちらも目立った疾患はなし。しかしソウル拘置所側は「朴元大統領が入所後、腰痛を頻繁に訴えるため、刑執行法によって外部の医療機関で治療を受けられるようにした」と明らかにした。
大統領時代には、徹底的に周囲を味方で固め、保身に徹してきた朴元大統領。
いざ、味方がいなくなった今、拘置所で己の非力さを憎みながら、頼みの綱は年齢による身体的疾患でいかに同情がひけるか。今後も裁判が長期化されるのは目に見えている。
彼女が今望むものは、権力でも、自身を称賛する映画でもなく、裁判に出廷しないための長期入院の理由である。
<文・安達 夕
@yuu_adachi>