絶望の総選挙。自称小学4年生の「どうして解散すんですか?」の問い自体は無視できない

 政治運動系のNPO法人の代表である20歳の大学生が、小学校4年生と偽称してウェブサイトを開き、正体がバレてしまい騒ぎになった。世間をナメた1人の若者によるバカげた話以上でも以下でもなかったのだが、その騒動のくだらなさとは別に、自称小学4年生が開いたウェブサイトの名称「どうして解散するんですか?」が、このたびの総選挙に対して多くの日本人が抱いていた疑問であることには相違ない。  首相が言うところの「アベノミクス解散」は、ほぼ全マスコミからも評判が悪い。大義がない、消費増税先延ばしは解散しなくてもできる、自分の延命を狙っただけの解散権の濫用だ、というような感じで、大方が眉をひそめている。  じゃあ、なんでこれほど強引な解散に打って出たのかといえば、ダイヤモンド・オンライン編集長が自ら筆を走らせた<「どっちらけ選挙」が予想される政治の責任>にだいたいのところがまとめられている。 <来年になれば、集団的自衛権行使の裏付けとなる法律の改正や、原発の再稼働に代表されるエネルギー問題など国民の意見が大きく割れることが予想される課題が山積している。また、与党内にも消費増税派も存在している。  だから、アベノミクスの帰趨もはっきりせず支持率の高いうちに、選挙に打って出る。ここで勝利すれば、消費増税派も一掃し党内基盤も盤石になるうえ、消費増税の急先鋒あった(筆者注:原文ママ)財務省を始めとする霞が関(官僚)も押さえこめる。そして次の4年間で、宿願である憲法改正への道筋をつける、これが首相の本当の狙いだ。こうした解説が説得力をもって聞こえてしまう。>  まあ、政治力学としてはそんなところがリアルなのだろう。それにしてもこのコラムは批判的スタンスをずいぶんはっきりさせていて、かつ、書いていることがかなりポップだ。国民そっちのけの「どっちらけ選挙」で投票率が相当低くなるんじゃないかと危惧した上で、次のような提起もしている。 <例えば、投票率が5割未満の場合は、その選挙は無効とすれば、政党・政治家が掲げた政策(公約)と有権書の問題意識がズレまくっていることが明らかとなり、政党・政治家は自らの課題設定を練り直さなくてはいけなくなる。加えて、投票数の5割以上を獲得する候補者が出るまで、再選挙を行うということにすれば、選挙はもっとエキサイティングなものになるだろう。>  発想の飛躍ぶりが鮮やかだ。このくらい現実性のないことを書けば、コラム界もエキサイティングなものになるだろう。ちなみに、当該記事のリード部分の2行目に、<安倍首相の進める経済政策であるアベノミクズについて、国民の「信」を問うというわけだ。>という1文があり、ツイッター界などでは「まだ〝アベノミクズ″のママだよ~」と囁かれている。そんな細かいことなど気にしない器のでかい編集長なのだ、きっと。  もちろん、「アベノミクス解散」を支持する声もある。その代表格として竹中平蔵教授を挙げよう。教授は日経BPネットにて、すばらしく明解な安倍晋三応援歌を歌っている。その名も<解散総選挙がポジティブ・サプライズな理由>だ。 <私としてはやはり、あくまでも経済政策の観点から再増税延期およびそれに伴う解散・総選挙を評価したい。「再増税を延期して、デフレ克服を最優先させる。デフレ克服が成し遂げられなければ、財政再建も果たせない」という安倍首相のロジックは正しい。  久しぶりにマクロ経済について正しいことを言う総理大臣が出てきたというのが私の率直な感想だ。選挙がどういう結果になるにせよ、正しい経済政策についてだけはその路線をしっかりと継続してもらいたい。>  安倍大絶賛だ。というか、竹中教授は安倍首相の茶坊主なのか、いや成年後見人みたいな眼差しか。いろんな褒め殺しやイヤミの言葉は思いつくが、JBpressに載っていた英エコノミスト誌のコラムほどの高みからモノを言う記事はそうそうない。<日本の総選挙:同じレース、同じ馬>と題した一品だ。 <安倍氏は幾度となく、長年のデフレに終止符を打ち、経済を再生させていると主張してきた。本誌(英エコノミスト)は、「アベノミクス」――急進的な金融緩和と政府支出の拡大、広範にわたる構造改革を促進する、巧みに打ち出されたキャンペーン――を承認することで、安倍氏を大目に見た向きの一員だ。  よく知られているように、政権の座に就いてすぐ、同氏は「Japan is back(日本は戻ってきた)」と宣言した。11月17日に発表された第3四半期の悲惨な国内総生産(GDP)統計が浮き彫りにしたように、首相は半分正しかった。日本は確かに戻った――だが、景気後退に逆戻りしたのだ。>  リード文は、<安倍晋三首相は権力基盤を固めるために解散総選挙に踏み切った。有権者は首相にもう1度チャンスを与えるべきだ。>となっている。おうおう、指導してくれるのね、この極東の島国を、と正直ムカつかなくもないのだけれど、つまりは各種規制緩和を早く進めなさいと言っているわけだ。たしかにアベノミクス第3の矢の成長戦略として、これといった規制緩和は実行されていない。反対を押し切って緩和できる規制がすでにない、という説もあるけれど。  でも、そんなこんな言っているうちに日本の国力はもう落ちまくってますよ、と指摘したのは揶揄文体を抑えたマジメ・バージョンのやまもといちろう氏だ。氏は、保守系論客やメディアがタムロするiRONNAというサイトで、<「アベノミクスの終わり」解散で社会保障改革待ったなし>というコラムを書いている。  やまもと氏は冒頭から<アベノミクスは、消費税10%への再引き上げを見送ったという点では財政再建の面からも、デフレ脱却で力強い経済成長の道筋を示すという面からも失敗に終わりつつあると考えてなんら問題ないでしょう。>と言い切り、<本来問うべき争点というのは消費税増税そのものではなく、また消費税が財政再建にどう資するかでもなく、100兆円を超えて膨れ上がった社会保障費の抜本的な見直しと、年100万人を切るであろう新生児をいかに増やすかです。>と視点を変える。  私はやまもと氏のこのコラムの以下の箇所に、氏の真面目さとこの国の絶望を読み取るのだが、いかがだろうか。 <おそらくは、国力の衰退を国民が認識し、受け入れる準備をする選挙になるのかもしれません。それは、もうこれ以上老人を支えることのできなくなった社会が、無理に無理を重ねていままでやってきて、言い逃れのように「経済成長すれば財政はいずれ均衡する」と念仏のように唱え続けて現実逃避し、埋まるはずのない大きな穴を放置した結果が現在の体たらくであるとも言えます。>  そう、すでに直面している超高齢化社会という最大の社会問題。その解決をめぐる議論がまるで活発とは言い難い状況下で行われる選挙。老後のカネだけ考えても、現在60歳以上のいい企業勤めは年金&退職金貰い逃げ、50代は年金も退職金もだいぶ減額、40代は退職金ないかも、30代は肩車型年金ムリゲーだろ、20代はただただ茫然、という惨状だ。  やまもと氏の言うように、みんなが「放置した結果」である。ゆえに、老後に日本があるかどうかもアヤシイかもしれないバーチャル小学4年生10歳が、「どうして解散するんですか?」とつっこんできたら、その問い自体は無視できないと思うのである。 <文/オバタカズユキ> おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。
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