先述した“ハイソ”な条件に挙げた「サラダボール」も少し紹介しておこう。
ニューヨークには「サラダボール専門店」が至る所に存在し、昼時になると店内はその「一球」を求めてサラリーマンが長い行列を作る。サラダの「葉っぱ」の種類から、トッピング、ドレッシングに至るまで自分で選べるため、好きな野菜だけを食べられるのがいい。
こうしたサラダボールをランチに選ぶと、むろん、メインがサラダになるのだが、その付け合わせにはスープやパンひとかけ、さらには「さすがはアメリカ」ともいうべきか、ポテトチップスのミニ袋が付いてくることもある。せっかく健康的なものを食べているのに、そこらへんは全く意味が分からない。
一方、肥満大国という真逆の顔も持つアメリカでは、やはり油っこい料理やジャンクフードが数多く存在する。ファストフード店はマクドナルドだけでも全米に14,000店舗あまり。全世界に展開する35,000店舗の半分弱がアメリカにあることになる。
現在アメリカでは、国民の実に3人に1人以上が肥満であるとされているが、どれだけジムの料金を下げても、施設内を見てみれば、利用者のほとんどは「標準体型」か「筋肉質」で、筆者が見る限り、本当に痩せないといけない人はジムには来ていない。
これに対し各州や市では様々な対策を取り組んでいる。2015年、カリフォルニア州のバークレー市ではソーダ税、アリゾナ州・ユタ州・ニューメキシコ州にまたがるナバホ自治区ではジャンクフード税が導入され話題となった。
ある日、某ファストフード店で「忙しくて仕方ないけど、最近ここのハンバーガーばかりで飽きた」とぼやくアメリカ人の友人に、筆者が「野菜を食べろ」と諭したところ、「ケチャップもフライドポテトも野菜じゃないか」というまさかの反論に遭った。筆者は笑いながら「さすがアメリカ」と受け流そうとしたのだが、実は彼の言葉には根拠があったのだ。それは、2011年、アメリカの議会が「ピザは野菜である」と認定したと騒ぎになったことにある。
当時ファーストレディだったミシェル・オバマ夫人が、ジャンクフードばかりを食べ、肥満化する子どもの食環境を改善するべく立ち上がったのだが、これに冷凍食品企業が猛反発。8分の1カップ(大さじ約2杯)のトマトペーストは、他の野菜2分の1カップの栄養価と等しいというデータから、同量のトマトペーストを使用した公立学校の学食で支給されている「冷凍ピザ」は、「野菜(料理)だ」と議会で認定され、物議をかもしたのだ。
この裏には、やはりと言うべきか、冷凍食品企業の利権が絡んでいるのだが、大さじ2杯のトマトペーストを使う料理が「野菜」であると主張する声もあれば、わざわざ早朝からジムへ行き、仕事前に汗を流そうとするサラリーマンもいることを考えると、この国の「健康」のバラつきが滑稽にみえて仕方ない。なるほど、前出のポテトチップスのミニ袋も、野菜と処理すれば合点がいく。
だが、日本の「生活保護」に近い「フードスタンプ(低所得者向け食料支援サービス)」の受給者と肥満の多い地区に、ある一定の相関があることや、公立学校で増える肥満児とジャンクフード支給、そしてジムに肥満がいないという現状を見ると、皮肉なことを言っている場合でも無いような気がしてならない。先進国の肥満、貧困、ジャンクフードの蔓延は、同じ「健康問題」という枠の中で静かに国民を蝕み続けている。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。