勝沼:上司が成すべきことは、AだBだと、部下をランク付けすることではないのではないでしょうか。また、部下を裁くことでもありません。上司がすべきことは、部下を業績や能力を高めることです。そこで、形骸化した評価制度を廃止しました。上司は部下を評価しない。そのかわり、上司は本来の役割である、部下の業績や能力を高めるための育成面談だけを行うのです。同時に社員には評価結果を気にせず、伸び伸びと安心して働いて欲しいという思いもあります。
山口氏(左)と勝沼氏
山口:上司が部下に命令し評価するトップダウンのマネジメントだけでは、もはや業績伸展に限界があることが定説です。育成面談を行うということは、上司が部下のサポート役になるということでしょうか。
勝沼:そのとおりです。これまでの人事評価を廃止し、年に2回の評価面談を廃止します。そのかわり、育成面談を行うのです。回数も四半期毎、年4回に増やします。そのためには、上司は、部下の現状のありのままを事実把握し、部下自身がどうしたいと思っているかということを傾聴し、部下が上司に支援を受けたいことを聞いた上で、上司が部下をサポートする、このモデルを実現するわけです。
評価に時間と労力をかけることをやめ、育成に時間と労力をかけるのです。これを実現するために、上司の意識とマネジメントスタイルを、トップダウンのマネジメントから、部下の能力を極大化するサポート型のマネジメントに変えていくことも必要です。
山口:上司の意識を変えてからではないと、マネジメント行動を変えられないので、こうした変革アクションにはとても長い時間がかかると思っている人事部長は多いと思います。
しかし、私はそうは思いません。「分解スキル反復演習型能力開発プログラム」を展開している経験をふまえると、行動を変えることがマインドや意識を変えるからです。それも、パーツ行動であればあるほど、行動は変わりやすく、意識が変わりやすいんです。まず人事評価を廃止するという行動をしたことが、その後、間違いなく、上司の意識を変えていくに違いないでしょう。
勝沼:人事部の役割は、社員の業績や能力の向上をサポートし、企業のビジネス伸展に貢献することです。それ以外にはありません。
山口:人事部が役割を果たすために、目的合理的に大胆に打ち手を繰り出している取り組みを敬服します。大胆な打ち手を実現するに至るまで、さまざまな苦労があったに違いないでしょう。経営者とはスムースに合意を取り付けることが出来たのか、上司や社員の納得したのか、人事評価なくして処遇はどうするのか、聞きたいことはたくさんあります。次回以降でお聞かせください。
<対談を終えて by 山口>
業績伸展のための人事評価制度を導入したが、運用しているうちに形式化したり複雑化したりして、本来の目的を果たせないばかりか、時間と労力がかかり過ぎ、逆に業績伸展のためのブレーキになってしなうという本末転倒な事態を、大胆にも人事評価をやめるという打ち手で解決しようとした事例だ。
先日、ご一緒に、「5つの質問によるコーチング実践話法」の演習を実施した。勝沼氏は、とても魅力的で効果的にコーチング話法を繰り出していた。その勝沼氏がリードする育成面談は、社員のモチベーションファクター(意欲の源泉)を大いに刺激し、能力向上と会社の業績伸展に、間違いなく資するに違いない。
<プロフィール>
勝沼 等(かつぬま ひとし)株式会社三栄建築設計 人事総務部長
ITX株式会社(総合商社「日商岩井㈱」より分離独立)で最年少支社長、ソフトバンクショップ日本1号店店長を経て、人事担当部長。エネルギー関連会社の人事部長を経て現職。日本大学生物資源科学部卒業。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第43回】
<文/山口博>
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを引き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある