原因は不明だが、現在はアメリカ精神医学会が策定した「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(通称・DSM-5)」に記載された診断基準が使用されている。これは箇条書きにされた項目にどれだけ当てはまるかというポイント制のようなものだ。
アメリカ精神医学会によるADHDの診断基準(※資料参照)
⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=147681
しかし、どの項目も指摘している内容はやや抽象的で、実際にやってみた人にすれば「当てはまるとも当てはまらないとも言えない項目も少なくない」というのが実態だ。そもそも大人になると、子供の時よりも個々人のライフスタイルが多様になり、結果としてADHDが原因とみられる日常生活の障害も多様化するため、なかなか本人も周囲もADHDの症状に気づきにくいという問題もあるという。
工藤医師によると、前述のような空間認識の問題以外にADHDの人が日常生活で見せる症状の例を挙げると、下記のように実にさまざまである。
▽部屋が片付けられない
▽やらねばならないことが後回しになる
▽計画の遂行能力に欠ける
▽単純なルーティンワークで何度も失敗する
▽新しい道具の使い方を教わってもうまく使えない
▽就寝後に熟睡できない
▽自宅で無意識に電気をつけっぱなしにする
▽家の鍵を頻繁にかけ忘れる
▽メールを書くときになかなか文章がまとまらない
▽メールの送信相手を頻繁に間違える
ただでさえADHDの診断が難しいのに、他の疾患を併発すると余計やっかいなことになる。これまでの研究ではADHDの人の約4割は、うつ病や双極性障害などの気分障害を併発していると報告されている。ADHDによる日常生活での障害を気にして二次的にうつ病などになることもあり、根っこにあるADHDに気づかれず、うつ病とだけ診断されてしまうこともある。
こうしたADHDの人はそもそもどれくらいいるのか?
日本でADHDの実態について初めて調査が行われたのは2010~2011年。この調査は浜松医科大学が浜松市内の18~49歳の男女1万人を対象に行ったもので、この時に明らかになった成人のADHD有病率は推定1.65%。だが、欧米での調査では4%を超えており、「あくまで日常診療での感覚だが、日本でも少なくとも1.65%よりは多いと感じていて、決して特別な珍しい病気ではない」(工藤医師)という。
現在、ADHDは複数の治療薬と生活指導などによる治療が行われることが一般的。工藤医師は次のように語る。
「治療による症状の改善速度はゆっくりしたものですが、指摘された症状が数多く当てはまる場合には専門医を受診することを考えてみてほしい」
<工藤千秋氏>
英国バーミンガム大学、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センター、東京労災病院脳神経外科副部長を経て、2001年に東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開設。
<取材・文/村上和巳>