高まるベトナムの「反中」。ハノイの町の「ノー・チナ」を追う
しかし、ベトナムと中国の対立は町の市場の店先だけにはとどまらない。特に、国家レベルでの緊張を感じさせるのは、中国聯合通信のSIMカードをハノイで国際ローミングしようと思ったら、カードは認識するも電波をキャッチできず使えなかったことだ。1年前には同じSIMもハノイで使えたものなのに……。実は、今年7月末のホーチミンでも同現象だった(経由地の韓国では使えたのでローミング機能は有効であるはず)。
また、中国側も神経を尖らせている。中国を出国するときも普段は無愛想で会話もない検査官が、渡航先がベトナムと分かると、目的や滞在日数などを質問攻めしてきた。およそどんな国でも問題なく通れる“最強パスポート”を持つ日本人が、中国出国時にこれほどまでに質問を受けるのは記憶にないくらい珍しいことだ。
⇒「中国との対立で戦略的に親日色が高まるベトナム」(https://hbol.jp/14771)に続く
<取材・文・撮影/我妻伊都>
「ノー、チナ!」
露店のおじさんはすごい剣幕で言い放った。ベトナム語では正式には中国をチョンクオックのはずだが、市場にいた人は筆者が英語で聞いたせいかチナと返してきた。そう、冒頭の一言は著者が紺色のウェストポーチを指さし「これは中国製?」と尋ねた際の返答だ。
ベトナムと中国の関係が悪いと報じられているが、実際はどうなのか今年10月31日ベトナムとは無関係なハロゥインパーティーで大盛り上がりするベトナムの首都ハノイ最大の観光地「旧市街」を訪れてみた。
中国との関係が悪い要因は複数あると言われる。最大の原因は、長年に渡る政治、文化面で強烈な影響を受ける冊封体制下へ組み入れられていたことが挙げられる。それは、フランスの統治を受ける19世紀後半前の寺院や遺跡に多くの漢字表記があることからも明らかだ。第二次世界大戦後も1974年西沙諸島で軍事衝突後、事実上、実効支配され、最近報じられる南沙諸島での一方的な石油掘削など領土問題の影響も大きいと言える。
しかし、考えみるとロシアと並び世界最多14の国と国境を接する中国。その中国と関係がよい国は、パキスタンくらいしか存在しない。そのパキスタンもインドという共通の敵がいるために関係を深めているに過ぎない。まるでクラスに共通のいじめっ子がいるので他の児童たちが団結する小学校のクラスのようだ。
ハノイ最大の市場「ドンスアン市場」へ足を運ぶと、東南アジアを感じさせる熱気に包まれる市場内では、衣類や国民服アオザイへ使う生地などを扱っており、商売人も客も女性が中心で、女性がとても元気な印象を受ける。社会主義国であることを忘れるほど活気がある。
ここでも、Tシャツやキャップなどを手に取り、「中国製?」と尋ねると、必ずといっていいほど冒頭の「ノー、チナ」と返答が返ってくる。タグを見るとほぼ全ての衣類や商品がベトナム製となっている。おかしい。著者は、3年前の2011年11月に初めてハノイを訪れているのだが、その時は市場や露店で売られていた衣類などの多くが中国製だったと記憶している。3年ほどで全面入れ替えなんて可能なのだろうか。タグ自体を付け替えたのではと勘ぐりを入れたくなる。
なぜならば、ベトナム税関総局によれば、2013年ベトナムの輸入国は、地域1位が中国で28%と3割近くを占める。経済面での中国依存は現在でも高く、衣類や雑貨などを中心に中国製が多い。特にベトナムで生産が難しい電化製品や果物は中国製、中国産が多く存在するのだ。にもかかわらず、このように表面的にはあまり見かけないのはあまりに不思議な状態に思える。
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